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魔法少女ニニンがなのは伝3 「看病と聞いてエロイことしか考えられない……そんなお前は俺の兄弟だ~ by音速丸」 今までのあらすじ、変態セクハラ魔人と3馬鹿忍者が海鳴の町にやって来たのでした。 「ちょっ! なのはちゃんそれマジ容赦ないよ!!」 「えっと…そう言われましてもこの台本にそう書いてあるので…」 「いやっ! 幼女にヒドイ事を言われるのは案外悪くないぞ!」 「サスケさん……あんたって人は」 本当のあらすじ、音速丸ご一行がなのは達の所にやって来たのでした。 「おかしい…(若本)」 音速丸はハラオウン家の居間でスナックとコーラを食しながら話題のヤンデレゲーが原作のアニメを見ながら呟いた。 サスケが音速丸のその独り言を聞いて言葉を返す。 ちなみにサスケはさすがに何もせず厄介になるのはあまりに申し訳ないという事で家事に勤しみ部屋の掃除をしていた。 「おかしい? あ~“スクールデイ○”ですか。確かにこんな主人公が女の子とチョメチョメでニャンニャンするなんておかしいですよね~」 「ぶるううわあああ!! 違うぞいサスケ! まあ確かにそれも一理あるが……俺が言いてえのは俺達のこの状況だよ!!!(若本)」 「はあ…と言いますと?」 「俺達がここに来てどんだけ経ってるよ~サスケ?(若本)」 「2週間くらいですかね」 「そのと~り! 2週間だよ2週間、普通それくらい時間がありゃあ女キャラの一人や二人とフラグくらい立つだろうがよ!? なのに俺たちときたら、こうやって時間を無駄に浪費してるだけじゃねえかよ!!!(若本)」 その音速丸の言い分に流石にサスケも開いた口が塞がらなかった。 サスケは仕事の為に家を開けがちなハラオウン家の家事手伝いに忙しいし他の忍者も無駄飯喰らいを感じて高町家や八神家の家事や家業の手伝いに回っているが、音速丸ときたら毎日エロゲ(しかもクロノの部屋のPCで)やってるかアニメ見てるかしかないのだ。 「いや音速丸さん……やっぱフラグ云々を言うなら何か行動をしてからの話では?」 「ほ~う…何か行動? 例えば何だサスケ?(若本)」 「まず我々の家事に手を貸すとか…」 「大却下ぜよ~! そういうのはおめえらがやってろい!(若本)」 「うわ~堂々とニート宣言ですか? それじゃあ他のクロス作品のキャラでも見習ったらどうですか?」 「ほう~う、サスケにしちゃあ良い事言うじゃねえか。それじゃあ他のクロス作品キャラがどうやってフラグを立ててるか分かるかサスケ?(若本)」 「そうですね~、まずは劇的な出会いとか?」 「俺達の出会いも十分に劇的だったぜ~(若本)」 「いきなりセクハラ攻撃ですからね……それじゃあ、やっぱり恒例のあのイベントですかね…」 アースラ内の訓練室になのは・フェイト・はやての3人が並んでいる。その3人の前には音速丸が腕を組んでパタパタと飛んでいた。 「え~では、そういう訳でこれからおめえらと模擬戦を行ううう!! ぶるあああ!!(若本)」 いきなりハイテンションでぶっ飛んでる音速丸になのは達は恐る恐る疑問を口にした。 「えっと…音速丸さん…どうして突然模擬戦を?」 「どういう訳なのかよく分からないんですが…」 「なんか、相変わらずテンション高いんやな~」 音速丸は厳密な会議の結果(酒飲んでアニメ見ながらサスケ達とくっちゃべった)やはりクロスキャラがフラグを立てるには模擬戦が1番という結論に落ち着いた為にこうしてなのは達を集めたのだった。 「グダグダあふあふ言ってんじゃねええ!!! 俺がやるって言ったらやるんだよロリっ子どもがああああ!!!!(若本)」 「でも私達って結構魔道師ランク高いんですよ?」 強引な俺理論を展開する音速丸になのはが心配そうに聞く、だが音速丸は不敵に笑ってこれに返事を返した。 「ふっ…おめえら~、一つ聞くがこの世で1番強いと思うのはだれだ~?(若本)」 その突然出た音速丸の質問になのは達は困惑しながらもそれぞれに答える。 「孫悟空」 「江田島平八」 「範馬勇次郎」 「くく…実はな~俺は孫悟空と戦って勝ったんだぜ~(若本)」 「「「本当ですか!?」」」 「もちろんさ~(若本)」 3人にそんな事を言う音速丸、その彼に近くで成り行きを見ていたサスケが耳打ちする。 「音速丸さん、子供に嘘言っちゃだめですよ。っていうかこの子達って強いらしいですから止めた方が良いですよ…」 「何言ってんだよサスケ~俺が孫悟空と戦ったってのは本当だぜ~。それに所詮9歳のロリっ子が使う魔法なんて大したことねえよ~(若本)」 「音速丸さ~ん、それじゃあ始めますよ」 「お~う分かったぜなのは~。ほれサスケ下がってろい、このロリっ子どもを今からホヒンホヒンにしてやるからな~(若本)」 音速丸の話を信じた3人の魔法少女は全力全開、手加減抜きで魔法を使った。 「スターライト…」 「プラズマザンバー…」 「ラグナロク…」 眩い光が収束し莫大な魔力が渦を巻き、3人の最大最強の大技が放たれる。 「「「ブレイカー!!!」」」 「げぼちょおおおおおおんんんん!!!!!(若本)」 今日も哀れな珍獣の絶叫が木霊する。 「ま~ったく。えれえ目に会ったぜ、まさかあんな魔法使うなんてよ~。っていうか全然魔法少女的じゃねえぞあれは…(若本)」 音速丸は先の模擬戦で大怪我(?)を負い体中に包帯を巻いた状態になっていたのだ。 音速丸はそうしてハラオウン家のベッドの上で養生しアニメを見ながら愚痴を漏らす、まあ彼にとってはこの方が文句を言われずにアニメを見れるのでありがたい限りだった。 そこにノックが鳴りフェイトの声が届いた。 「あの…音速丸さん…ちょっと良いですか?」 「むううう!! ちょっ、ちょっと待ちなさいよマドモアゼル! 今、股間のエッチピストルを仕舞うからして~(若本)」 「は、はい…」 音速丸はそう言うと見ていた18禁アニメの再生を止めて散らばっていたエロゲーのパッケージを仕舞って、難しそうな本を並べて最低限の見栄を張る準備を整える。 「ささ、お嬢さん。準備が整いましたぞなもし~(若本)」 「それじゃあ…失礼します」 音速丸のいる部屋にフェイトがおずおずと入ってくる、彼女は音速丸の包帯だらけの身体を見て心底すまなそうな顔をする。 「その…すいません。私達のせいで音速丸さんにケガをさせて…」 「いや~、まあ気にすんなってよ~ミス美少女~。俺ってばあの時変身するの時の呪文考えてたらボーっとしちゃってよ~、おめえらは悪くねえって(若本) 「そ、そうなんですか?」 元々は音速丸が言い出した模擬戦なのにケガをさせた責任を感じるあたりフェイトの人柄の良さが伺えた。 「でも私のせいでもありますから……看病させてもらっていいですか?」 「なんですとおおおお!!! まあいいだろう、おめえがどうしてもと言うならば看病させてやろう~(若本)」 こうして音速丸はフェイトにトンデモ看病をさせることになった。 音速丸はさっそくフェイトの膝の上を占拠してセクハラモードに突入する。 「看病と言うものは痛みに震える患者に直接手を触れて痛みを和らげる…ということなのだ!! まずはケガの早くなる呪文キダイスと唱えながら頭をナデナデしろい!!!(若本)」 「分かりました、キダイスキダイスキダイス、こうですか?」 「う~ん、もっと~もっとだ~!!!(若本)」 「キダイスキダイスキダイスキダイス(以下略)」 まあ、つまり“大好き”に聞こえるっていう最高に馬鹿らしいセクハラトラップな訳である。 そして音速丸がそれだけで終わるはずも無く、彼のセクハラ攻撃はまだまだ続く。 「よ~し次はシテルアイと言いながら包帯取替え~」 「シテルアイシテルアイシテルアイ」 「では音速丸様ウフ~ンと言いながらメシ~」 「音速丸様…ウフ~ン」 「それじゃあ、服を脱いで1番セクシーだと思うポーズをしろい!!!!(若本)」 「ふえ? セクシーですか?」 もはや取り繕う事もしなくなった音速丸、突っ込み役がいない為にどこまでもヒートアップしていくセクハラ攻撃であった。 「お~い音速丸。生きてるか? フェイトがいないんだが…」 そこでクロノが見たのはフェイトの膝の上でにやけた顔でよだれを垂らす音速丸の姿だった。 「音速丸……ブレイズキャノンで黒焦げかスナイプショットで蜂の巣のどっちが良い?」 「ちょっ! 待てってクロスケこれには深~い訳が(若本)」 「問答無用」 「ぶるううあああああああああああ!!!!!(若本)」 この珍生物は何度ヒドイ目にあっても懲りたりはしない、今日も海鳴の町に彼の声が木霊する。 続くかも(?) 前へ 目次へ 次へ
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この広い世界には幾千、幾万の人達がいて。 いろんな人たちが、願いや想いを抱いて暮らしていて。 その願いは時に触れ合って、ぶつかりあって。 だけど、その中の幾つかは、 きっと繋がっていける。伝え合っていける。 これから始まるのは、そんな出会いとふれあいのお話。 ――――魔法少女リリカルなのはThe Elder Scrolls はじまります タムリエル。 正確に言えばニルンと呼ばれる世界に複数存在する、大陸の一つ。 その全土を支配している、セプティム朝タムリエル帝国の事を示す。 つまり管理局の見解による『第23管理外世界』とは、この世界の一部でしかない。 とはいえ、このタムリエルのみを『管理外世界』とする判断も、決して間違っているわけではない。 何故ならタムリエルと他大陸の間に広がり、互いの交流を阻む「ムンダスの大海」とは、 我々の認識する「水によって満たされた海」ではなく、異世界と半ば地続きとなっている「精神世界」だからだ。 管理局風に呼ぶならば「ムンダスの大海」は「次元空間」と置き換えても良いのかもしれない。 最も、非常に危険が伴うとはいえ通常船舶で航行が可能な以上、やはり厳密な意味で「次元空間」とは別物なのだが。 結界に揺らぎが見られた時点より密かに調査を実施した結果、上記の通り、ある程度以上の情報収集に成功している。 この世界の文明レベルは中世の封建社会に酷似しており、それほど進歩した技術などは持っていない。 石造りの街並みが広がり、機械類は未だ出現せず、よって世界は「剣と魔法」によって支配、運営されている。 しかしながら魔法技術に関しては、時間や様々な技術的要因から調査は難航しており、現在の所は何も判明していない。 だが、外部世界からの接触を遮断する結界。それも管理局に感知、解除できない結界。 このような大規模魔法を行使できることから、その魔法技術は詳細不明なれども高度であると予想される。 本任務は、その結界の基点であると思われるタムリエル中央、シロディール地方へと降下し、 結界の揺らぎ――即ち大規模次元犯罪の前兆と思われる要因を調査し、可能ならば対応する事である。 この異世界タムリエルは前述の通り、極めて未知の世界に等しく、その調査は多大な危険が伴うだろう。 「――――故にくれぐれも注意されたし、か」 深い森の奥で、なのはとフェイトは出立前にクロノから言われた忠告を思い出し、小さくため息を吐いていた。 成程、確かに注意力散漫であったかもしれない。 タムリエル――シロディール地方に広がる森林の風景は、とても素晴らしいものだった。 他都市に比べて多少なりとも自然の多い海鳴町は元より、ミッドチルダでも、こんなに綺麗な森は無いだろう。 彼方此方から小鳥達の歌声が聞こえてくるし、青々と茂った木々の隙間から差し込む木漏れ日は、とても暖かだ。 目を凝らせば林の奥には鹿の姿も見て取れた。周囲を探せば野兎なんかもいるかもしれない。 そして何よりも、なのはが復帰したばかりであったし、二人っきりでの任務なんて本当に久しぶりだったのもある。 ピクニック気分、とまでは言わなくとも浮かれていたのは事実だった。 そしてこの世界で初めて人影を見かけて、ウキウキと話しかけてしまったことも認めて、なのはは頷いた。 「クロノ君、確かに私達が悪かったかもしれない」 でもね。 だけどね。 「こんな猫さんみたいな人に襲われるっていうのは、注意しようがないと思うの」 「猫じゃねえっ! カジートだッ! 良いからさっさと金を出せ! 無けりゃ親御さんに出してもらうんだなッ! それも嫌だってんなら、ぶっ殺して身包み剥ぐだけだ! どっちにしたって手間は大して変わらねぇんだぞ!」」 一方、吼える猫さんみたいな人――もといカジートの山賊は酷く頭が痛かった。 カジートとは、つまり判りやすく説明するならば『猫の獣人』とでもするべきか。 獅子か猫のような頭部を持ち、その体を覆う毛皮や、尻に生えた尾も獣のそれだ。 そして何より特徴的なのは、その頭部に見合った瞳――暗視の力を持っているという事。 その為、多くのカジートが盗賊や山賊へと道を誤ることが多いのだが、 彼もまた、そうして犯罪者へと成り果てた――新米の山賊である。 基本的に山賊、追剥の類は街道沿いの砦跡や、野営地に居座ることが多い。 街道を行く旅人や何かは旅費を持っている事もあるし、良い稼ぎになるのだが―― その一方で、山賊にとって酷く危険な場所でもある。 数時間間隔で街道を巡回している帝都兵は、駆け出しの山賊にはとんでもない脅威なのだ。 何せ帝国軍正式採用の鋼鉄鎧は酷く頑丈であり、その技量は並々ならぬものがある。 まともに戦ったのでは当然太刀打ちできないし、隠れていても見つかるのが関の山だ。 当然、駆け出しの山賊である彼にとって、街道沿いはリスクが高い。 そこで彼は帝都南方に広がるグレートフォレストの、更に街道から南に外れたあたりを根城としている。 洞窟や遺跡が点在し、新米の冒険者が訪れるこの辺りは非常に良い『穴場』なのだ。 なにせ駆け出しの冒険者というのは新米の山賊と、たいして力量の差が無い。 更には身に着けている装備は高く売れるし、上等な品だったら自分の物にしても良い。 勿論、返り討ちにあう可能性だってあるのだが――今回に関しては、その心配はなさそうだった。 何せ上等そうな衣服を身に着けた少女が二人、だ。 杖を持っているのを見た所、魔術師の類かと思って警戒したが……呪文を唱えてくる気配も無い。 というか、このシロディールでも見たことのない形の杖だ。 噂に聞くMOD(意味は知らない。彼はモロウウィンド産だろうと見当をつけているが)とかいう品だろうか。 何にせよ、高値で売り飛ばせるのは間違いあるまい。 「なのは、なのは。ひょっとしたら猫じゃなくてライオンなんじゃないかな」 「そっか……ごめんね、ライオンさん。間違えちゃったよ」 「だーかーらーっ!!」 ああもうやり難いなァッ! まったくもって緊張感が無い。――どこぞの箱入り娘か何かだろうか。 カジートの存在すら知らなかったようだし、そうと見て間違いは無い筈だ。 噂じゃあ、レヤウィンの伯爵夫人は酷い異種族嫌いだとかで、 折りを見ては異種族人を拷問にしかける――のだそうだ。 まあ、其処まで過度じゃないにしろ、差別主義者に育てられた良いところの娘達。 ――なんてところだろう。 こうして威嚇の声を上げて斧を振り回してもまったく動じない辺りを見ても、 やっぱり世間に慣れてないに違いない。 ――そうやって声を荒げるカジートに対し、なのは達もまた途方に暮れていた。 いや、確かに強盗に襲われるなんてのは二人とも初めての経験だったが、 今までの人生――特にここ数年で――それに倍する程の修羅場を潜り抜けている。 それに第一……その、何だ。持っている武器がデバイスでも何でもないただの鉄の斧では……。 正直、バリアジャケットや防護シールドを抜けるとは思えないし……。 彼の纏っている革鎧だって、此方の砲撃魔術に耐えうる品だとはとても……。 「どうしようか、フェイトちゃん?」 「この世界のお金なんて持って無いし――……」 「……泥棒さん相手だったら、お話を聞いてもらうのも、良いと思うの」 「それはちょっと、物騒なんじゃないかなぁ……」 「てめえら、何をごちゃごちゃ喋ってやがるッ! うるさ「いや、五月蝿いのはお前のほうじゃないか?」 その声は、なのは達の背後から、本当に突然響き渡った。 驚き、振り返った二人の前にいたのは――――影のような男。 本当に今の今まで、彼が存在する事にまるで気がつかなかった。 果たして何処からか転移してきたのだと言われても、疑う事は無かっただろう。 或いは、ひょっとするとそれは、このカジートの山賊も同様だったのかもしれない。 明らかに視線の先――視野に入っていたはずの空間に、突如現れた人物を、 彼はこの世のものでない物を見るように見つめていた。 何故なら、その腕には既に弓が引き絞られていたからだ。 この距離だ。弓に矢をつがえる前ならば斧を持つカジートに分があった。 だが、既に矢をいつでも発射できるのなら……話は別だ。 よほど下手な射手でもない限り外すことはないだろうし、 そしてこの男が『よほど下手な射手』である事に賭ける勇気は無い。 だがカジートの山賊は、それでも精一杯の虚勢を張って叫んだ。 「なんだ、てめぇっ! 俺の獲物を横取りする気か!?」 「特段、そんなつもりは無いが。 此方としては彼女達を見逃すのと、少し夢味が悪くなりそうでね。 なので止めに入らせて貰った。 良いから早く逃げ出す事をお勧めする。さもなければ君の頭を射抜くだけだ。 ――どちらにしても、手間は大して変わらない」 その最後の言葉――つまり『いつでも殺せた』という一言が、決定打だった。 カジートは泡を食ったように斧を放り出すと、一目散に街道のほうへと走り出していく。 当然の判断だったろう。それは、なのはとフェイトにも良く理解できた。 この影のような男は、最初から見ていたのだ。一部始終を。 そして――……三人が三人とも、その存在に気づかなかった。 どれほどの力量の持ち主だというのか。 ――若干12歳の二人には、とてもじゃないが見当がつかない。 「……やれやれ、まったく。 ガードの奴ら、鹿狩りには熱心な癖をして街道外の山賊退治は……。 君達、二人とも怪我は無いかい? どこの出身だか知らないが、街道や街から離れない方が良いぞ」 そう言いながら近づいてくる男に対して、二人は礼を言うべくその顔を見上げ――そして固まった。 クロノ君。確かにクロノ君の言うとおり、この世界は色々とわからないことが多いみたいです。 だって、その、さっきの猫さんにも驚いたけど――この人。 助けてくれたし、すっごく優しそうな声なんだけれど、そのお顔が――……。 「「……蜥蜴さん?」」 ……アルゴニアンだ、と蜥蜴頭の男は、苦笑しながら訂正した。 戻る 目次へ 次へ
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第12話「敗北、そして新たな出会いなの」 「ゾフィー、ヒカリ……!! ついに現れたか、宇宙警備隊め……!!」 異次元空間。 ゾフィーとヒカリの乱入という事態を目にし、ヤプールは歯軋りした。 宇宙警備隊の介入は、全く予想していなかったわけではない。 メビウスが時空管理局側にいる以上、時空管理局がメビウスの世界を見つけ出すかもしれない。 逆に宇宙警備隊側が、メビウスを探してこちらの世界にやってくるかもしれない。 そう、可能性としては考えてはいたが……実際に現れたとあっては、やはり厄介だ。 ヤプールは掌から黒いガスを噴出させ、それを凝視する。 「……まだだ。 仮に、奴等のコアを全て使ったとしても……まだ届かん。 完成さえしてしまえば、宇宙警備隊も時空管理局も……誰が相手であろうと…… 暗黒四天王や、皇帝さえも……!!」 闇の書さえ完成すれば、全ての目的は達成される。 そうなれば、もはや止められる者はいない……だが、まだまだ完成には遠い。 フェイトのリンカーコアを吸収しても、まだ闇の書のページは埋まりきっていなかったのだ。 今の所、ページを大幅に増やす方法が一つだけ、あるにはあるが……それを用いても、まだ届かないだろう。 ヴォルケンリッターやダイナが、地道な蒐集を進めるのを待つか。 答えは否……こちらからも、出来る事をやらなければならない。 ページを増やす手立てが……無い訳ではないからだ。 (尤も、これで奴等が倒れてしまえばそこまで……かなりの賭けにはなるがな。 奴等に、それだけの力があるかどうか……) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「超古代の戦士……それが、ウルトラマンダイナの正体か。」 『うん……ミライさんの様な、光の国のウルトラマンってわけじゃないらしいんだ。』 時空管理局本局。 ユーノは、ウルトラマンダイナについて調べ上げた事に関して、なのは達に報告していた。 分かった事は、ダイナはミライと同じ光の国のウルトラマンではないと言う事。 ダイナは異世界において、超古代の時代に悪と戦い続けてきた光の戦士の一人。 そして、スフィアと呼ばれる知的生命体の火星襲来を機に、現代に目覚めたという事である。 ミライの予想は、見事に的中していたのだ。 「そう言われてみると、確かに納得できるね。 なんかダイナって、ゾフィーやヒカリと違って、色が派手だったしさ。」 「ダイナは、レッド族・シルバー族・ブルー族のどれに当てはまるのか、分からないウルトラマンでしたからね。」 「え……ウルトラマンって、そういう風に色で分けられてるんですか?」 「うん、そうだよ。 だからそれもあって、ダイナが異世界のウルトラマンだって思ったんだけど…… まあ、どれに分類したらいいのかっていう例外みたいなウルトラマンもいるにはいるから、不安だったんだ。」 ミライは、恐らく自分が知る限りは最強のウルトラマンであろう、ウルトラマンキングの事を考えて溜息をついた。 正直な話、あのウルトラマンキングだけは、どれに分類したらいいか未だに悩む。 シルバー族といえばシルバー族なのかもしれないが……カラーリングが、少々独特すぎる。 本人に聞いてみれば分かるのかもしれないが、相手が相手だけに、会える機会は極めて少ないだろう。 兎に角、この事は一旦置いておくことにして、ユーノの報告を聞くのに専念する事にする。 『ダイナのいた世界では、他にもウルトラマンは確認されてる。 ウルトラマンティガ……ダイナと同じ、超古代の戦士が現代に目覚めたウルトラマンなんだ。 一応、他にもイーヴィルティガっていうウルトラマンもいたらしいけど……こっちは悪党だったらしいからね。 怪獣とか侵略者とか、そっちの方に分類されてたんだ。』 「じゃあダイナは、そのティガっていうウルトラマンと、一緒に地球を守り続けていたの?」 『いや、それがそうじゃないんだ。 ティガが現れたのは、ダイナが現れる七年も前なんだけど……ティガはある戦いを切欠に、姿を消したんだ。』 ユーノは画面に、ティガに関する資料を映し出す。 ダイナと似た姿を持つ、もう一人のウルトラマン―――ウルトラマンティガ。 その異世界において、初めて人々の前に現れた、最初のウルトラマンである。 ティガが現れたのは、ダイナが現れるよりも八年も前。 超古代の戦士の遺伝子を受け継ぐ一人の青年―――マドカ=ダイゴが、ティガの力を手にした事が全ての切欠であった。 ―――もっともなのは達は、ダイゴの名前までは分からなかったようだが――― ティガは、数多くの悪と激闘を繰り広げ、人々を守り抜いてきた。 しかし、月日が経つに連れて戦いは熾烈を極めるようになり……ティガも、苦戦を強いられる用になっていった。 そして終には、ティガとは対極をなす『闇』の存在―――最強の敵、邪神ガタノゾーアが復活を遂げた。 ガタノゾーアの力は恐ろしく強大であり……ティガも、その前に敗れ去ってしまったのだ。 だが、それでも人々は希望を捨てなかった。 闇に屈しまいとした人々の希望は、光となってティガを蘇らせたのだ。 希望の光を得たティガ―――グリッターティガは、その圧倒的な力でガタノゾーアを打ち倒した。 そして、戦いが終わった後……ダイゴは、ティガへと変身する力を失ってしまったのである。 「希望が力になって、闇を倒した……」 「最後まで諦めず、不可能を可能にする……それがウルトラマン。 異世界でも、それは変わらないんだね。」 『それからしばらくの間、ティガは人々の前に現れることはなかったんだけど…… 邪神との戦いから二年後に、ティガは再び現れたんだ。』 邪神ガタノゾーアとの戦いから、二年後。 超古代遺跡ルルイエより、闇の力を持つ巨人が復活を果した。 そのリーダー格である戦士カミーラは、かつてティガと恋人同士にあった。 彼女はティガと再び出会う為、ダイゴの前に現れ、ティガへと変身する力を与えたのである。 その後、ダイゴは彼女等を打ち倒す為にとティガへと変身を遂げたのだが……現れたティガは、かつての彼と違った。 その全身は、闇を連想させる漆黒のカラーリングをしていた。 そう……ティガは本来、彼女達と同じ闇の力を持つ戦士だったのだ。 二年前は、正義の心を持つダイゴがその力を手にした事により、光の戦士として覚醒した。 だが今回は、カミーラの力の影響が大きかった為か、闇の戦士―――ティガダークとして目覚めてしまったのである。 そして、その変身は極めて不完全なものであった。 正義の心を持ったまま闇の戦士として覚醒してしまったが為に、本来の力を発揮できないでいたのだ。 しかし、それでもティガは諦めず、彼女等に戦いを挑んだ。 その結果……奇跡は起こった。 ルルイエに眠っていた超古代の光の戦士達が、戦いの最中にティガへと光を分け与えたのだ。 ティガは戦士達の光を得、グリッターティガへと覚醒し……そして、カミーラ達を終に打ち倒したのである。 『そして、この戦いから六年して……終にダイナが現れたんだ。』 「じゃあ、それを最後にティガは消えたんだね。」 『いや、それがこれが最後じゃないんだ。』 「……ふぇ?」 『さっき言ったのと矛盾しちゃうけど……実はティガは、一度だけダイナと共闘してるんだ。』 それは、ティガが最後に現れてから六年後の話。 地球侵略を目論む異星人―――モネラ星人が、地球に襲来してきた時の事である。 ダイナは、モネラ星人の切り札である超巨大植物獣クィーンモネラに、敗れ去ってしまったのだ。 圧倒的な力を持つ巨悪の前に、ウルトラマンが倒されてしまう。 奇しくも状況は、かつてのティガとガタノゾーアとの最終決戦と、同じであったのだ。 そして……この絶望的な状況を救ったのも、かつてと同じもの―――希望の光であった。 希望を捨てず、諦めなかった人々の想いが光となり、そしてその光が……ティガとなったのである。 ティガは己の光を……人々の希望をダイナへと分け与え、ダイナを復活させた。 そして、ティガとダイナはついにクィーンモネラを打ち倒したのである。 「……全く、とんでもない話だね。 信じてさえい続ければ、必ず奇跡は起こるって……でも、そういうのも嫌いじゃないよ。」 『これが、ティガが人々の前に姿を現した最後の戦いだよ。 それからは、ずっとダイナが戦い続けていたんだけど……』 「……ダイナはある戦いを切欠に、姿を消した?」 『うん、その通りだよ。 ダイナは、暗黒惑星グランスフィアとの戦いを最後に……消え去ったんだ。』 地球と一体化を遂げようとした、暗黒惑星グランスフィア。 周囲に巨大なブラックホールを持つ、近づくもの全てを飲み込む巨大な闇。 ダイナは仲間達と力をあわせ、グランスフィアとの決戦に臨んだ。 そして、グランスフィアを消し去る事に見事成功し、地球を救ったのだが…… ダイナは、グランスフィア消失時に発生した巨大なブラックホールに、そのまま飲み込まれてしまったのである。 これが、人々がダイナを見た最後だと記録されている。 「えっと……そのブラックホールが、私達の世界に通じていたってことでいいんだよね?」 『多分そういうことだと思う。 そして、その後は……何らかの切欠でヴォルケンリッター達と出会って、行動を共にしてる。』 「しかし分からないのは、ダイナが何で彼等と一緒にいるかだな。 こうして見てる限り、ダイナはミライさんと同じ……人々を守るために戦ってきた、ウルトラマンなんだろう? なら、どうして闇の書側の味方なんか……」 ダイナの正体が分かったのは良いが、御蔭で尚更謎が深まった。 何故ダイナが闇の書側についたのかが、皆目検討がつかなくなってしまったからだ。 もしも、ダイナが悪党であるのならば話は分かる。 だが……彼は正義の味方として戦い続けた、ウルトラマンなのだ。 ならば何故、闇の書を完成させようとしているのだろうか。 仮に、ヴォルケンリッターに恩義を感じているのだとしても……やはり、考えられない。 「……ザフィーラの奴は、自分達の意思で闇の書の完成を目指してるって言ってた。 主は関係ないって……もしかして、闇の書を完成させなきゃいけない理由があるのかな?」 「けど、闇の書は破壊にしか使えないはずだし……あ、ユーノ君。 その闇の書に関しては、何か分かってるのかな?」 『はい、御蔭で色々と分かりました。 とりあえず、今分かってる事は全部話しますね。』 ユーノは画面に、闇の書に関する資料を映し出した。 ここまで調べてみて、様々な事が分かった。 まず最初に、闇の書というのは正式な名称ではないということ。 闇の書の本来の名前は『夜天の魔道書』ということである。 その本来の目的は、各地の偉大な魔道師の技術を吸収して研究する事。 それらを記録として半永久的に残す為に造られた、主と共に旅する魔道書……それが、夜天の書であったのだ。 そんな夜天の書が破壊の為に力を発揮するようになったのは、ある持ち主がプログラムを改竄したから。 圧倒的な力を欲しさに、全てを捻じ曲げた者がいたからである。 この改竄の結果、旅をする機能・破損したデータを自動修復する機能が暴走してしまった。 転生と無限再生の機能は、これが原因で生じてしまったのだった。 だが闇の書には、これらを遥かに上回る凶悪な機能が、更に搭載されてしまっていた。 それは、主に対する影響の変化にあった。 闇の書は、一定期間蒐集がない場合……主自身の魔力を侵食し始める。 そして完成した後には、破壊の為だけに主の力を無際限に使い続ける。 その為、これまでの主は皆……完成してすぐに、その命を闇の書に吸い取られてしまったのである。 「……ロストロギアの持つ、強大な力を求めた結果か。 どこの世界でも、そんな奴はいるんだな……」 「封印方法や停止方法については、分かった事はあるか?」 『それは今探してる。 でも、完成前の停止は……多分難しい。』 「え……どうして?」 『闇の書が真の主と認識した人物でないと、システムへの管理者権限が使用できない。 つまり、プログラムの停止や改変ができないんだ。 無理に外部からアクセスしようとしたら、主を吸収して転生するシステムも組み込まれてる…… だから、闇の書の永久封印は不可能って言われてるんだ。』 「……ファイナル・クロスシールドも、破られる可能性がありえるんだよね……」 闇の書の封印は、流石のウルトラマンでも厳しいようであった。 かつてヤプールを封印したファイナル・クロスシールドでも、下手をすれば打ち破られる危険性がある。 そしてそれは、破壊に関しても同じ事が言える。 アルカンシェルで跡形もなく吹き飛ばしても再生するというのであれば、自分達の光線はまず通用しない。 例え、一撃で惑星を一つ消滅させるだけの破壊力を持つ最強兵器『ウルトラキー』を使ったとしても、恐らく結果は同じだろう。 しかし……それでも、主を闇の書の完成前に捕まえ、闇の書を破壊するしか手はない。 結果を先送りにするだけではあるが、現状を何とかする事は可能だ。 皆の顔つきが、一層険しくなる。 こんなに危険な魔道書を作り上げたかつての主に対して、少なからず怒りを感じているようである。 するとそんな中、アルフがふと口を開き、疑問に思ったことを訪ねてみた。 「ユーノ、闇の書を改竄したかつての主ってのがどんな奴なのかは、分からないのかい?」 『名前とか出身世界とか、詳しい事までは分からないけど……古い歴史書には、こう書いてあった。 まるで血の様な赤い色をした、悪魔の様な存在だって……』 「悪魔……」 悪魔という単語を聞くと、どうしてもヤプールの事が頭に思い浮かんでしまう。 散々、ミライやゾフィー達といったウルトラマン達が、ヤプールの事を悪魔と呼び続けていたためであるが…… 流石に考えすぎだろうと、皆が苦笑する。 しかし……唯一、ミライだけは引っ掛かりを感じていた。 何故ならば、ヤプールも……赤い色をしているからだ。 (本当に……単なる偶然なんだろうか……?) 単なる偶然として片付けるには、何かが引っかかる。 ヤプールが闇の書を狙うのは、本当に、唯単に強い力の存在を感じ取っただけだからなのだろうか。 それとも……もしかしたら、最初から闇の書の存在を知っていたのではないだろうか。 そう……闇の書の改竄を行ったのは、ヤプールなのではないだろうか。 そんな悪い予感を……ミライは、少なからず感じていたのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「入院?」 「ええ……そうなんです。」 翌日。 はやて達は、彼女が通っている病院へとやってきていた。 今朝、急にはやてが強烈な痛みに襲われ、倒れてしまったのだ。 慌ててアスカ達は、彼女を病院へと運び込んだのだが…… そこで、彼女の担当である石田女医から、入院を勧められたのだ。 どうやら、麻痺が徐々に広がり始めている可能性があるらしい。 事態が事態だけに、流石にアスカ達もそれを承諾せざるをえなかった。 そして今、はやては病室でその事実を伝えられ、少し落ち込んでいる。 「あ、でも……検査とか、念の為だとか言ってたしさ。 そんな心配しなくてもいいって。」 「うん、それはええけど……私が入院したら、皆のごはんは誰が作るん?」 「う……」 「ま、まあそれは……何とかしますから。」 「大丈夫ですよ……多分。」 「はやて、毎日会いに来るからな。 だから……心配、しなくても大丈夫だからな?」 「うん……ヴィータはええ子やな。 せやけど、無理に毎日来んでも大丈夫やからね。 やる事ないし、ヴィータ退屈やろ?」 「う、うん……」 自分の身よりも、周りの者の事を第一に心配する。 そんなはやての優しさを前に、誰もが言葉を発せられないでいた。 彼女が何故倒れたのか……その原因は明らかだ。 闇の書の侵食が、早まってきているのだろう。 何としてでも、彼女を救わなければならない。 より早くの完成を……目指さなければならない。 この優しい主を、絶対に死なせてなるものか。 「あ、でもすずかちゃんからメールとか来るかもやし……心配せぇへんかな……」 「それでしたら、私が連絡しておきますね。」 「まあ、はやてちゃんは普段から頑張ってるんだしさ。 たまには三食昼寝つきの休暇ってことで、ゆっくりするといいよ。」 「そやな……じゃあ、ありがたくそうさせてもらうわ。」 「じゃあ私達は、一度荷物を取りに戻ります。 また後ほど。」 「うん、気をつけてな。」 アスカ達は、はやてが入院中必要になるものを取りに帰るため、病室を後にした。 しかし……それから、しばらくした後だった。 はやては胸を押さえ、苦しみ始めたのだ。 アスカ達に心配をさせまいと、ずっと痛みを堪え続けていたのである。 これまでに経験した事のないレベルの激痛が、体中を駆け巡る。 一体、自分に何が起こっているのか。 はやては、何も分からぬまま、ただ痛みに耐えていた。 (あかん……しっかりせな。 このままじゃ、皆が困るんやもんね……) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん……ちょっといいかな?」 「すずか?」 翌日。 フェイトは無事に意識を取り戻し、なのは達と共に学校にいた。 彼女のリンカーコアの回復には時間が少しばかりかかるが、日常生活には一切支障はない。 その為、これまでと変わらずに学校生活を送れている様だった。 二人は管理局から指示があるまで、現場待機という形になっている。 そして今は、丁度下校時なのだが……仲良し四人組が教室を出てから少しして、すずかがふと口を開いた。 なのは達はその表情を見て、何か深刻な悩み事があるに違いないとすぐに察する。 そして、その予感は見事に的中した。 「実は……はやてちゃんが、入院しちゃったって。」 「え……入院?」 「うん……そうなの。」 すずかの心配事とは、昨日の事―――親友であるはやてが、入院してしまったということだった。 なのは達も、直接の面識がないとはいえ、はやての事はすずかから色々と聞いている。 メールの文面を見る限りでは、然程重い症状というわけではなさそうだが……事が事だけに、流石に心配だった。 彼女は、自分に何か出来ることはないだろうかと思っていたのだ。 そしてその思いは、なのは達三人も同じく感じていた。 ならばと、早速アリサが提案する。 「じゃあさ、皆でお見舞いに行こうよ。」 「うん、私もそれがいいと思う。 今日いきなりは流石にだから、連絡入れて、明日辺りに。」 「うんうん……メールに、励ましの写真とか一緒に乗せてさ。」 「皆……ありがとう。」 「何言ってんの、すずかの友達なんでしょ? 私達にも、紹介してくれるって言ってたじゃないの。」 皆ではやてのお見舞いに行く。 四人の意見は一致し、早速すずかははやてへとメールを打とうとする。 そのまま、四人は学校の外へと出てバス停へと向かう。 そして、十字路に差し掛かったときだった。 「あ、ミライさん。」 「あ、皆。」 四人は、丁度外に出かけていたミライと出会った。 アリサとすずかの二人は、翠屋で始めてあった時以外にも、ミライとは何度か会っていた。 なのは達がハラオウン家の夕食に招かれた時や、なのはの父である士郎が監督を務めるサッカーチームの応援に行った時。 エイミィがなのはの姉の美由希と意気投合して、皆で銭湯に行った時など、色々だ。 ちなみに当たり前だが、賑やかな女性人とは対照的に、ミライは一人男湯で過ごしていた。 ユーノは事情を知らないアリサ達がいる手前一緒には行けなかったし、クロノも都合が悪く仕事ときたからだ。 だが、一人で空しく過ごしていたかというと、全くそんな事は無い。 実は言うと彼は、その銭湯で偶々同じ境遇の男性と出会い、そのまま意気投合してしまっていたのである。 この出会いは後々、色々と波紋を巻き起こすわけなのだが……まあそれは別の話。 ここで、なのは達はミライにある頼みをする事にした。 「ミライさん、よかったら写真撮ってもらってもいいですか?」 「写真……いいけど、どうしたの?」 「実は、友達が入院しちゃって……励ましのメールを送ろうと思ったんですけど。」 「考えてみたら、誰かにとってもらわないと四人全員映れないんですよね。 それで、どうしようかって思ってたんだけど……」 「それで写真かぁ……うん、いいよ。 早速撮ってあげる。」 「ミライさん、ありがとうございます♪」 その後、ここでは流石に通行人の迷惑だからということで、五人は近くの公園へと移動した。 ミライははやての事は知らないが、きっと彼女達の良き友達なのだろうと思っていた。 だから彼は、早く良くなって欲しいと願いを込め、四人の写真を撮る。 しかし、この時はたして誰が思っただろうか。 この写真が、思わぬ波紋を呼ぶことになろうとは…… ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あ、すずかちゃんからだ。」 数分後。 八神家では、シャマルが食事の下ごしらえをしている最中であった。 はやてが入院中のため、今は彼女がはやての携帯電話を預かっている。 早速、シャマルはすずかからのメールを確認する。 メールの内容は、明日の放課後に友達と共に、はやての見舞いに行くという事。 はやてにとって、すずかは誰よりの親友である。 彼女から励ましの言葉があれば、きっとはやても喜ぶに違いないだろう。 それに、すずかが友達を連れてきてくれるというのならば、はやてに新しい友達が出来る。 思わずシャマルの顔に、笑みが浮かぶ……が。 この直後、メールに添付されていた一枚の写真を見て……彼女の表情は、凍りついた。 「え……!?」 シャマルは目を見開き、硬直する。 思わず、握っていた菜箸をシンクに落としてしまった。 しかしそれも無理は無い。 その写真に、あの二人―――なのはとフェイトが映っていたのだから。 まさか、すずかが彼女達と友達だなんて、思ってもみなかった。 このままではまずい……そう感じ、すぐさまシャマルは他の四人へと念話を飛ばす。 『シャマルか……どうした?』 「た、大変なの!! テスタロッサちゃんと、なのはちゃんと、すずかちゃんとが……!!」 『落ち着け、シャマル。 一体、テスタロッサ達がどうしたんだ?』 「あの二人が、管理局魔道師が……明日、はやてちゃんに会いに来ちゃうの!!」 『ハァッ!? ちょ、それって……俺達の事、ばれたの!?』 「ううん、そうじゃないんだけど……あの二人、すずかちゃんのお友達だから……!!」 『何だって……?』 あの二人は、すずかの友人だった。 ヴォルケンリッター並びにダイナ達は、その事実に驚き言葉を失う。 何と言う偶然だろうか。 はやてが闇の書の主であるという事までは、どうやらばれてはいないようだが……それでもこれはまずい。 シャマルが焦りを覚えるのも、無理は無い。 「どうしよう、どうしたら……!!」 『落ち着け、シャマル。 幸い、主はやての魔術資質は全て闇の書の中だ。 詳しい検査をされない限り、まずばれはしない。』 「そ、それはそうだけど……」 『つまり、私達と鉢合わせることがなければいいわけだ。』 「うぅ……顔を見られちゃったのは、失敗だったわ。 出撃する時に、変身魔法でも使ってればよかった……」 『今更悔いても仕方ない。 ご友人のお見舞いには、私達は席を外そう。 後は主はやてと、それと石田先生に我等の名前を出さないようにお願いしておこう。』 「はやてちゃん、変に思わないかなぁ……」 『仕方あるまい……頼んだぞ。』 「うん……」 『……ちょっと待った。 確かに、シグナムさんとか皆はやばいけどさ……俺はセーフなんじゃない?』 「……あ。」 アスカの一言を聞き、皆がハッとした。 確かに蒐集の際には、アスカはウルトラマンダイナに変身して出撃している。 自分達と違い、顔も名前も知られていない筈だ。 彼だけは、なのは達と接触してもセーフなのではなかろうか。 誰もがそう思ったが……すぐにこの後、皆があることを思い出す。 『駄目だ、アスカ……お前も顔が割れている可能性がある。』 『え?』 『お前さ、一番最初に変身した時……ほら、あたし助けた時だよ。 あの時、一瞬だけど顔見られてなかったか?』 『……あぁっ!?』 自分でもすっかり忘れていた。 この世界に来て、一番最初にダイナへと変身した時。 あの時、一瞬だけとはいえ姿を見られていた可能性があるのだ。 ばれていない可能性もあるが、それでも顔を見せるにはリスクが高すぎる。 結局のところ、誰もなのは達の前に姿を現す事はできないということだ。 アスカは大きく溜息をつき、己の不運を呪った。 本当に今更ではあるが、この世界に来る前までの様に、隠れてこっそり変身すべきだったか。 いや、それではこうしてはやての為に戦うことも出来なかったし……どちらにせよ、どうしようもない。 『……落ち込んでいても仕方ない。 気を切り替えて、蒐集に戻るか……あ~、くっそ……』 「……兎に角、それじゃあ急がないと……」 早速シャマルは、身支度を整え外出しようとする。 はやて達に、自分達の名前を出さぬよう注意をしなくてはならない。 一体、どう説明すれば納得してくれるだろうか。 病院に着くまでに、いい言い訳を考えなければならない。 これまでにないこの事態に、シャマルは相当の危機感を抱いていた。 (怒っちゃうかな、はやてちゃん……) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「シャマルの奴、大丈夫かな……?」 異世界、大海原。 その上空を飛びながら、ヴィータはシャマルの事を考えていた。 自分達の名前を出さないようにとはいうものの、どうはやて達に説明するのだろうか。 下手な事を言って、彼女達を怒らせたり、不安がらせたりしないだろうか。 どうにも、マイナスな方向へばかり物事を考えてしまう。 「……いけねぇ。 今は、こっちに集中しないといけないのに……」 ヴィータは大きく頭を振り、蒐集活動に集中しようとする。 闇の書さえ完成させてしまえば、後はどうにだってなる。 はやてを一刻も早く回復させるのが、自分達の役目。 そう思おうとするが……ヴィータには、すぐにそれが出来なかった。 昨日から、何かが自分の中で引っかかっていたからだ。 (……何かがおかしいんだ。 こんな筈じゃないって、私の中の記憶が訴えている……でも。 今は、こうするしかないんだ……!! はやてが笑わなくなったり、死んじゃったりしたら……!!) しかし、ヴィータはその引っ掛かりをすぐに否定する。 自分がこうして躊躇ったりしている内に、はやてに何かがあったらどうしようもない。 彼女の命は、後どれだけもつか分からないのだ。 だから、やるしかない……やるしかないのだ。 自分達には、迷っている暇は無い。 「やるよ、アイゼン!!」 『Ja!!』 海中から、巨大な海蛇の様な魔道生物が出現する。 ヴィータはカートリッジをロードし、その脳天へと全力でグラーフアイゼンを叩きつけた。 だが、一撃で倒れてはくれない……どうやら、それなりに実力があるようだ。 ならばそれだけ、リンカーコアから蒐集できる魔力も期待できる。 久々に当たりを引いたと確信し、ヴィータは一気に勝負に出た。 再度カートリッジをロード、グラーフアイゼンの形態を変化させる。 とてつもなく巨大な破壊槌―――ギガントフォームに。 「ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 グラーフアイゼン最強の一撃が、魔道生物の横っ面にぶち込まれた。 流石にこれには耐え切れなかったようであり、魔道生物は悲鳴を上げて崩れ落ちる。 すかさずヴィータは、アイゼンを振り下ろして追撃。 その頭部に、強烈な一撃をぶち込んだのだった。 これで、魔道生物は完全に沈黙。 すぐにヴィータは、リンカーコアを生物から摘出させる。 結果は予想したとおり……これまでの生物に比べて、比較的強い魔力であった。 これなら、それなりにはページを埋められそうだ。 すぐに、蒐集に移ろうとする……が。 この直後……予期せぬ事態が、彼女に襲い掛かった。 ドッバァァァァァァァァンッ!! 「えっ!?」 「ギャオオオオオォォォォォォォォッ!!」 突然、背後から大津波が襲いかかってきたのだ。 ヴィータはとっさに障壁を展開、それに飲み込まれないようにと踏ん張る。 この津波は、自然に発生したものではない。 同時に聞こえてきた鳴き声こそが、何よりの証拠である。 すぐにヴィータは、その声の主であるだろう相手の迎撃に移ろうとする。 しかし、この直後だった。 もう一発、続けて津波が発生したのだ。 それも今度は、正反対……魔道生物のいた方からである。 よりにもよってこのタイミングで、敵は二体現れたのだ。 ヴィータは片手で障壁を維持しながら、もう片方の手でも障壁を展開し、背後の津波に対応する。 なのはの砲撃魔法なんかに比べれば、この程度の相手は何とかしのげるレベルだった。 そして、津波をしのぎきった時……彼女は、信じられない光景を目にした。 「なっ……嘘だろ!?」 「ギャオオォォンッ!!」 魔道生物がいた方に出現した、その大型生物。 まるで刃の様に鋭く尖った尾びれを持つ、紅い体色の二足歩行獣―――レッドギラスが、空を仰いで大きく雄叫びを上げた。 あろうことかこの怪獣は、今ヴィータの目の前で……彼女が倒した魔道生物を、食らったのだ。 それも……摘出したリンカーコアごとである。 これにはヴィータも、怒りを感じずにはいられない。 何としてでもぶち倒し、リンカーコアを引きずり出す。 すぐさま、彼女はレッドギラスに襲いかかろうとする……が。 それよりも早く、彼女の背後にいたもう一匹の怪獣が動いた。 レッドギラスと全く同じ、唯一の違いはその体色が黒色である怪獣―――ブラックギラス。 ブラックギラスはヴィータへと、全力で拳を振り下ろしてきた。 「くっ!!」 ギリギリのところで気付き、ヴィータはこれを回避した。 どうやら、二体纏めて相手にする必要があるらしい。 ならば、このままギガントフォームの一撃をぶち込んで、打ち倒してくれる。 ヴィータは大きく振り被り、そして二匹へと振り下ろそうとする。 しかし、それよりも僅かに早く……レッドギラスとブラックギラスが動いた。 二匹はまるでスクラムを組むように、互いの肩をがっちりと掴んだのだ。 そして……その体勢のまま、急速で回転し始めた。 これこそが、かつてウルトラセブンとウルトラマンレオを苦しめた、双子怪獣必殺の攻撃―――ギラススピンである。 グラーフアイゼンとギラススピンが、真っ向からぶつかり合った。 鉄槌の騎士必殺の一撃と、双子怪獣必殺の一撃。 相手にうち勝ったのは…… 「ぐっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」 グラーフアイゼンが弾かれ、ヴィータが大きく吹っ飛ばされる。 うち勝ったのは、ギラススピンの方であった。 ヴィータは当然知らなかっただろうが、ギラススピンはかつて、ウルトラセブンのアイスラッガーにもうち勝った程の攻撃。 彼女の最大の一撃をもってしても、うち破るには届かなかったのだ。 勝ち誇るかのように、双子怪獣は唸りを上げる。 そしてヴィータは、海面へと叩きつけられ……海中へと沈んでいった。 (嘘だろ……? こんなんで、終わりなんて……) まさかこんな所で、こんな敗北をするなんて、思ってもみなかった。 絶対にはやてを助け出そうと、そう誓ったばかりだというのに……何という様だろうか。 悔しくて仕方が無い。 こんな所で、終わりたくなんか無い。 ヴィータは、徐々に薄れ行く意識の中……大切な仲間と、そして主の事を思った。 (シグナム、シャマル、ザフィーラ、アスカ……はやて……はやてぇ!!) 「……はやてぇっ!!」 ヴィータが大声を上げ、起き上がる。 大きく肩で息をし、周囲を見回す。 するとここで彼女は、風景がそれまでとは全く変わっていることに気がついた。 大海原とは一転、緑色の木々が生い茂っている。 目の前では焚き火が燃えており、海水で冷えた体を温めてくれる。 もしかして、誰かが自分を助けてくれたのではないだろうか。 そう思ったヴィータは、他に誰かいないのかと、周囲を見渡してみる。 すると……少しばかり離れた位置から、何者かが近寄ってきた。 馬を連れた、カウボーイハットを被っている中年の男性。 そのわきに抱えられている薪を見て、助けてくれたのはこの人に違いないとヴィータは確信する。 「お、気がついたか……大丈夫そうだね。」 「はい……えっと、助けてくれてありがとうございます。 ……助けてくれたんですよね?」 「ああ、そうだ。 浜辺に流れ着いていたところを見つけてね……本当、驚かされたよ。 ……一体、何があったのかな?」 「……あたしは……」 先程の出来事を思い出し、ヴィータは唇をかみ締める。 突然現れた、謎の生物二匹に負けてしまった。 それも……グラーフアイゼンの最強形態であるギガントフォームが、真っ向勝負で破れたのだ。 鉄槌の騎士と鉄の伯爵にとって、これ以上ない屈辱だった。 そんなヴィータの表情を見て、男は少しばかり暗い表情をする。 どうやら、よっぽどのことがあったに違いない……これは、聞くのをよした方がいいだろうか。 そう思って、話を中断しようとするが……ヴィータが話をし始め、それを遮った。 「……あたしは、負けたんだ。 あの、黒と赤の二匹の怪獣に……アイゼンが……!!」 「……!!」 ヴィータの言葉を聞き、男は表情を変えた。 赤と黒の二匹の怪獣……場所は海。 彼には、思い当たる節があったのだ。 だが……それ以上に問題が、最後の一言―――アイゼン。 まさかと思い、男は確認をとろうとした。 「……よかったら、名前を教えてもらえないかな?」 「あ……ヴィータです。」 「ヴィータか……」 男はその名前を聞き、軽く一息をついた。 やはり、予想したとおりだった……偶然とは恐ろしいものである。 まさかこんな所で、出会う羽目になろうとは。 しばし、男は言葉を失っていた。 そんな彼をヴィータは、不思議そうな顔をして見つめてくる。 流石にこのままではまずいと感じて、男はすぐに口を開いた。 そして……己の名を、彼女へと告げる。 「……俺はダン。 モロボシ=ダンだ。」 モロボシ=ダン。 かつて、地球防衛に当たった一人の戦士。 ウルトラ兄弟の一人であり、そしてウルトラマンレオの師―――ウルトラセブンその人である。 戻る 目次へ 次へ
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通信機器の沈黙した司令室ではオペレーターの声が飛び交う事も少なく、奇妙な静寂が満ちていた。 その中で、シャマルの周囲に表示された複数のモニターだけが一番忙しなく稼働している。 シャマルのデバイス<クラールヴィント>の持つペンダルフォルムが展開され、両の手の指輪から伸びる振り子がそれぞれの機器に接続される形となっていた。 「初めて見ます、デバイスによる電子操作……」 世にも珍しい光景に、状況を見守るしかないグリフィスが感嘆の呟きを漏らす。 「シャマルのデバイスはかなり特殊やからな。 古代ベルカ式は未だ謎が多い。解明されてるのも単純な戦闘技術だけや」 そうして見守る中で、半ばトランス状態となったシャマルが巨大なCPUを相手に自らの頭脳と魔法のみで情報処理を行っていく。 デバイスが持つ独力の観測魔法のみで現場をモニター出来るほど範囲は狭くなく、負担は掛かるがサーチャーを経由して観測を行うしかない。 シャマル一人に無理を強いることに覚える心苦しさを表には出さず、はやては可能な範囲内でオペレーターに指示を出していた。 今、この時は家族としてのはやてではない。部隊長としての八神はやてがいるのだ。 そして、シャマルの額から汗が滲み出し始めた時、状況は進展した。 「―――サーチャーとの接続に成功しました。観測魔法展開、モニター出します」 魔法へのノイズを極力失くす為、感情の起伏と共に抑揚を失くした声でシャマルが事務的に告げた。 沈黙していた司令室のモニターの前に、クラールヴィントが照射したホログラムの画面が重なるように表示される。 そこに再び映し出されたリニアレールの様子を見て、はやてを含む全員が息を呑んだ。 「なんだ、アレは……っ?」 呻くようなグリフィスの言葉は、その場の全員の思いを代弁していた。 モニター以外の観測機が数値で示すとおり、確実に加速しているリニアレールの車両。 しかし、一番の変化はそこではなく―――車両の表面に、奇怪な<肉片>がこびり付いていた。 「……寄生しとるんか?」 冷静に観察することで得た印象を、はやてが口にする。 それはおおよそ的を得た言葉のように、全員の心に違和感なく浸透した。 信じがたいことだが、あの車両に<何か>が寄生している。車両の表面にまるで根付くようにへばり付き、無機質とは違う生きた肉感を見せていた。 それは小さく胎動し、<眼>と思わしき部分さえ存在する。 リニアレールの全体を覆うほど広範囲ではないが、<寄生>は各先端車両に集中しており、それらが車両のコントロールを奪う原因である事を明確に表していた。 生ける生体列車となって山岳を走り抜ける―――その不気味な旅路の終着点は、あるいは地獄なのかもしれない。 そんな冗談染みた考えが浮かぶほどに、モニターされた光景は司令室の人間に衝撃を与えた。 「―――なのは隊長とフェイト隊長の様子は?」 「モニターします」 誰もが動揺する中、電子の世界に没頭するシャマルと部隊長としての責任の重みによって現実に立ち続けるはやてだけが行動していた。 二つ目のウィンドウが展開され、上空の様子が映し出される。 そこに映る光景もまた現実離れしたものだった。 事前のなのはの報告どおり、彼女達が対峙する敵は他に表現しようも無く、ただハッキリと<死神>だった。 「これは……現実の光景なのか?」 グリフィスは、もし何かの宗教に入っていればこの場で自らの神に祈っていたかもしれない。 決して経験豊富ではないが、それなりに管理局員として事件に対応してきた下積みがある。司令室の誰もがそうだ。 しかし、今直面する状況は、あらゆる経験を無駄にするほど常軌を逸していた。 青い空を埋め尽くすように蠢く、黒い死神の群れ―――。 まるで別の生物に作り変えようとするように車両へ寄生する肉片―――。 空想や映画の中に存在する『在り得ない光景』が、現実感と絶望感を持って眼前に広がっているのだ。 誰もが恐怖を感じていた。 かつて、子供の頃に何の根拠も無く感じていた―――ベッドの下やクローゼットの中に隠れる見えないモンスター達を幻視する時の恐怖を。 「まるで<悪魔>だ……」 人は、闇を恐れずにはいられない。 「―――リニアレールの終着施設へ連絡、作業員を全員退避させえ。それと、応援要請」 しかし、また同時に人は闇を恐れるだけの存在ではなかった。それに抗い、打ち勝つ為に。 はやての厳かな声が全員の正気を取り戻し、止まっていた筋肉の動きを再開させた。 やるべきことの途中だった者はそれを再開し、命令を与えられた者は行動を始める。 「隊長達の、援護ですか?」 声に怯えを含ませることだけは抑えられるようになったグリフィスが尋ねた。 はやては首を振る。 「単体の戦闘力ならあの二人は最強や。いざとなったら、リミッター解除を申請する。 応援は施設の方で待機してもらう。最悪の事態だけは避けなあかん―――シャマル、車両内はモニター出来んか?」 「不可能です」 脳の大半の処理能力を電子操作に使っているシャマルの返答は感情の無い端的なものだったが、同時に分かりやすかった。 「……リニアレールの方は、フォロー出来そうにないな。ルーキー達に任せよう」 「それしかありませんか」 「そら違うな―――」 不安を隠せないグリフィスに対して、はやてはこの緊迫した状況で場違いとも言える満面の笑みを浮かべて見せた。 「『それしかない』んやない、『それがベスト』 この程度のピンチ、あの子らなら乗り越えられるわ」 それは、新人達の力を信じようとする健気な姿勢でも、成功を過信する傲慢な態度でもなかった。 新人達の命を含んだあらゆる最悪の事態を考えて備える現実と、この状況を問題なく乗り越えられると信じる理想を合わせ持った笑みだった。 指揮官には、時としてこんな矛盾を孕む思考が必要とされる。 今の、八神はやてにはそれがあった。 「私がこの眼で見て、この手で選んだストライカー達や。必ず成し遂げる」 何の根拠も無い断言に、しかし奇妙な説得力が含まれていた。 司令室の誰もが大きな不安を感じる中、胸を張ったはやての言葉がゆっくりと全員の体を縛っていた躊躇いを解いていく。 怯えていた子供達は戦士へと戻っていった。 「さあ、何呆けとる? 予想外やけど、やるべき事は何も変わっとらんで。延長戦を始めようか―――任務続行や」 「「了解!」」 機動六課が再び戦いの意思を取り戻した瞬間だった。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十話『Devil Must Die』 開戦の銃火が、まずは真正面にいた数匹の蟲を吹き飛ばした。 アンカーガンのそれより威力の増した魔力弾が愚かな肉の塊を壁にへばり付かせる。 しかし、生物としての生態を持たない蟲の悪魔達は、脚の数本や体の一部を抉られたくらいではその活動を止めなかった。 新たに滲み出るように出現した蟲と群れを成し、ティアナの元へと蠢き進む。 「Com n winp(来な、ノロマ野郎)」 虫嫌いの人間が見れば卒倒するような光景を前に、しかしティアナはただそれを磨り潰す加虐的な笑みを浮かべて手招きした。 そして唐突に、目の前に集中するティアナを奇襲するように天井から襲い掛かってきた蟲に右手を突き出して、クロスミラージュの銃身で貫いた。 「見えてるわよ」 不敵に笑い飛ばすその言葉は、串刺しになった<悪魔>に対するものか、警告しようと口を開いたスバルの呆けた顔に対するものか。 銃口が体にめり込んだまま痙攣する蟲を眼前の群れに突きつけると、ティアナはそのまま魔力弾をぶっ放した。 蟲の体が四散する。 相も変らぬ速射が愚直な敵の前進を薙ぎ払い、酷使されるクロスミラージュの悲鳴のような銃声が車両内を埋め尽くした。 天井や壁から、時には床下から水漏れのように滲み出て形作る蟲の姿目掛けて、当たるを幸いとばかりに撃ちまくる。 二つの銃口それぞれに眼がついているような正確無比な射撃の二重奏。ティアナに死角は無い。 《―――Bullet slice》 しかし、弾丸は有限だった。 カートリッジに蓄積された魔力を吐き尽くし、右手のクロスミラージュが警告を発する。 撃った魔力弾の数は約30発。クロスミラージュの装弾数は単純計算でアンカーガンの倍近いことになる。 十二分な性能だ。弾切れだというのに、笑みが浮かんだ。 白熱する感情の片隅で、ティアナの理性は冷静に計算を続けていた。 「テ、ティア……ッ!」 「騒ぐな。動くな」 右手の火力がなくなったことにスバルが焦るが、当人は普段より幾分冷たい言葉を端的に返すだけだった。 初めて撃つ銃を両方一気に撃ち尽くすようなバカはやらない。 ここぞとばかりに迫り来る蟲の群れへ左の銃火で牽制しながら、デバイスの収まっていたケースを蹴り上げる。 ケースと共に、その中に納まっていた予備のカートリッジが外れて宙を舞った。 左のカートリッジも切れる。沈黙した火力の隙を突いて、壁にへばりついていた一匹が意外な瞬発力で飛び掛かった。見えている。だが魔力弾は撃てない。 銃身で思いっきり殴り飛ばした。 肉の潰れる気持ち悪い感触と音に、鈍器として使用されたクロスミラージュの抗議の声が聞こえた気がする。もちろん無視した。 めり込んだ銃身を素早くパージして、その空のカートリッジバレルを壁に向かって蹴りつけ、杭のように蟲の体へ突き刺した。ついでに左のバレルも外す。 グリップ部分が本体であるクロスミラージュ。落下してきたカートリッジを、ちょうど接合部分に重なるようにして叩き付ける。 《Reload》 ガチッという金属音と共に、小気味のよい電子音声が響いた。 刹那の間に繰り広げられた攻防と交差がここに終結する。 力を取り戻したデバイスを再び眼前に突きつけた時、壁に突き刺したまま消滅を始める蟲以外に敵の姿は煙のように消え失せていた。 「……消えた?」 突然の敵の襲来にさえ動揺を見せなかったティアナが、その敵の突然の退却には訝しげな表情を見せる。 まだ何匹かの蟲が残っていたハズだ。 闘争と殺戮を糧に生きる<悪魔>が自ら立ち去るなど初めての経験だった。 奴らは自らの意思で<こちらの世界>へ現れ、滅ぶまで活動し続ける。下級悪魔に引き際を見極める理性など存在しない。 「裏がありそうね……」 ティアナは第三者の意思の介入を漠然と感じていた。 沈黙を取り戻した車両の中、全ての光景を見守っていたスバルが恐る恐るティアナに近づく。 「ティア……倒したの?」 「出て来たのはね。 アレは寄生するタイプみたいだから、多分車両の見えない部分に潜んでコントロールを奪ってるんだわ」 「うへぇ、ゴキブリみたい」 気持ち悪そうに顔を顰めるスバルの感想は、本人の意思とは違い随分と呑気な印象を与えた。 一匹見つければ陰に三十匹。言い得て妙だが<悪魔>に対する表現とは思えない。 ティアナはこんな時でも普段の調子を忘れないスバルを見て、苦笑を浮かべた。 「でも、すごいねティア。あれだけの数を相手に……いつもより動きもずっと鋭くてさ」 「さっきも見たとおり、アレは何かに寄生して真価を発揮するタイプでしょ。動きも遅いし、必要以上に恐れなければ敵じゃないわ」 暗に、先ほどの戦闘で竦んでいたスバル自身を叱責するようにティアナは断言した。 どんなに弱い<悪魔>であっても、その闇の存在感は人の心に根付く恐怖を刺激する。 それを打ち破る感情や意思で引き金を引いた時こそ、人は<悪魔>を打倒することが出来るのだ。 それは今のスバルにも出来るはずのことだった。 「―――ところで、当面の問題はどうやって車両を止めるか、よね」 思い出したようにクロスミラージュを真新しい革製ガンホルダーに納め、車両のコントロールパネルを一瞥しながら呟いた。 リニアレールを加速させている原因は分かった。 しかし、その障害をどうやって排除するかがまだ分からない。 「あの蟲を全部倒せば……」 「どうやって? 床下や配電盤の隙間に殺虫剤でも撒く?」 的を得ていないようで実は得ているスバルの意見に、あえて皮肉交じりに返す。 対悪魔用に絶大な威力と効果範囲を持つアイテムをティアナだけは知っていたが、今手元に無い以上考慮すべき手段ではない。 「……動力のある先端車両をぶっ壊せば」 「ティア、なんか考え方が過激になってない?」 危険な笑みを浮かべるティアの意見を、今度は逆にスバルが却下した。『冗談よ』と言ってるが、どこまで本気か分からなかった。 スバルの持つ魔法<ディバインバスター>なら可能な方法かもしれないが、内部にいるティアナ達の無事は保証できない。 何より、このリニアレールとて莫大な資金で運転されている設備なのだ。 管理局所属の部隊には破壊を最小限に留める義務があった。 「ここからの操作は受け付けない……でも、この車両を動かす力まで蟲が作り出してるわけじゃないはずよ。壊す以外に動力機関を停止させることが出来れば」 「でも、操作は受け付けないんでしょ?」 「何でもいいわ、エンジンに繋がってるコードを全部引っこ抜いてでも……」 「―――わたしが、やるです」 打開策はスバルとティアナ以外の口から打ち出された。 「リイン曹長!? 気が付きましたか……」 「ごめんなさいです。コントロールを取り戻そうとした不意を突かれてしまいました」 スバルの腕の中でグッタリとしていたリインが眼を覚まし、フラフラと二人の目線の位置まで飛んでみせる。 外傷は無いようだが、小さな体が頼りなく浮いているのを見ると、どうしても不安を感じざる得ない。 「大丈夫ですか?」 「少し頭が痛い程度です。それよりも、任務を続けましょう。動力炉を止めればいいですね?」 すぐに自らのやるべきことを把握しようとするのは、さすがベテランの管理局員であった。 「はい。でも、コントロールが……」 「問題ないです。コンソールを介さずに、コードから直接停止命令を出すことも出来るですよ。わたしはデバイスですから」 リインのその言葉に、二人は早速作業に取り掛かった。 操作機器の板を剥がし、中のコードからリインが指定する物を選んで切断する。 「ここから管制CPUの代わりに直接停止命令を送るです」 「蟲の妨害は?」 「理屈はわかりませんが、ハッキングなどで乗っ取ってる状態ではないですからね。直接襲ってくることだけを警戒してください」 リインを中心に展開される小型の魔方陣が切断されたコードを何本も取り込み始めた。 スバルとティアナが周囲を警戒するが、今のところ敵が現れる気配は無い。 元々コントロールを取り戻せなかったのも、物理的に敵の奇襲を受けたからであり、電子戦においては文字通りリインに敵はいなかった。 「くっくっくっ、今度はリインのターンですよ! 覚悟するです、このMU☆SI☆YA☆RO☆U!」 突然気色の悪い蟲に襲われた屈辱を晴らすが如く、愛らしい顔に悪魔の笑みを浮かべたリインが死を宣告する。 同時に発せられた停止命令はコードを伝って、何の障害も無く動力炉に届いた。 低い振動音が先端車両の内部に響き渡り、リニアレールの加速は―――止まらない。 動力は一つではないのだ。 「ここの動力炉は止めました。でも、反対車両にもう一個残ってるです。それも止めないといけません」 「急ごう、ティア!」 レリックのケースを抱えなおし、戦意も新たにするスバルに対してティアナはデバイスを抜きながら頷き返す。 「多分間違いなく敵襲があるわ。先端車両まで一気に抜けるわよ」 「分かった!」 「露払いはあたしがするわ。スバルはレリックとリイン曹長の護衛よ」 「今度は足手まといにならないですよっ」 スバルとリインの十分な気合いを感じ取り、状況を打開する希望を見出したティアナにも余裕が戻り始めた。 しかし、いざ行動を開始しようとした時、走行とは違う大きな振動が車両全体を揺るがした。 壁越しに何かの破壊音がわずかに聞こえる。 三人は思わず天井を見上げた。 「……今のは!?」 「車両の外で、何かあったみたいね」 「じゃあ、エリオとキャロが……!」 皆まで聞かず、焦るスバルの言いたいことをティアナは察する。 だが現状では二人の安否を案じる以外何も出来ない。 とにかく、今すべきことは一刻も早くこの車両を停止させることなのだ。 「―――行くわよ!」 足を引っ張る不安と懸念を断ち切り、ティアナは二人を伴って駆け出した。 信じ難い光景が、エリオの目の前で広がっていた。 「そんな……完全に破壊したはずっ」 ソレが敵であることは、もう疑いようがない。 しかし、かろうじて戦う構えを取ってはいるが、エリオの内心は動揺でとても戦える状態ではなかった。 エリオとキャロ、そしてフリードの前に現れた敵は―――撃破したはずの新型ガジェットだった。 「何なんだ、コイツは!?」 フリードの熱線によって真っ二つに切断されたはずのガジェットは、おぞましい姿へと変貌して再び稼動し始めていた。 一度潰えた骸が再び動き出したのだとしたら、確かにそれはおぞましいもの以外の何者でもない。 復活したガジェットは、切断面を得体の知れない肉の塊で接合し、その装甲にも半ば融合するように胎動する<皮膚>を覗かせた姿へと変わっていた。 縦に走る機体の繋ぎ目の中心には、巨大な一つ目がギョロギョロと動いている。 機械と生物の狭間に存在するような奇怪な怪物となったガジェットは、同じく肉片で継ぎ接ぎになったアームベルトを蠢かせていた。 それはもう兵器でも生き物でもない。 「<悪魔>……か……っ」 混乱と恐怖に震えるエリオには、もうそれ以外に言葉のしようがなかった。 「エリオ君、気をつけて。あんな風になっても、AMFは生きてるみたいです」 「……分かるの?」 「はい。ベースのガジェットに何かが寄生してるみたい」 敵に対して背後へ隠した、自分と比べて驚くほど冷静なキャロの言葉を受けて、エリオはなるほど確かに納得する。 <寄生>―――確かに、あの有り様はその表現が最も合うような気がした。 しかしキャロは、寄生した存在が<何か>であると。『寄生生物だ』と表現はしてくれなかった。 無機物に寄生し、本来の存在からあれほどかけ離れた化け物へと変貌させてしまう生物―――そんなものがこの世に生息するはずがない。 新たな理解は、得体の知れない存在を更にエリオの認識のはるか遠くへと追いやった。 「ど、どうすれば……?」 幼い彼の常識や判断が全く及ばない状況に混乱する心はすぐに恐怖を呼んだ。 ストラーダを構えたエリオの姿は戦いに備えた戦士のそれである。 しかし、デバイスを握る腕に宿る小刻みな震えは全く正反対の内心を忠実に表していた。 戦う為の訓練は積んできた―――でも、あんな化け物と戦う方法なんて知らない。 どんな苦しい状況でも諦めない決意をしてきた―――でも、こんな恐怖を克服する術なんて知らない。 傷つくことも覚悟してきた―――でも、得体の知れない闇の奥底へ引きずりこまれた時そこに待つものが一体何なのか想像すら出来ない。 そして、幼い少年の心を占めるのはただ一つだけ。 恐怖。 グロテスクな外見に反して腐臭や異臭が鼻を突くことはない。代わりに五感以外の感覚を撫で付けるのは瘴気とも言うべき気色の悪い感触だった。 積み上げた戦士としての年月は消し飛び、眼を逸らすことも怖くて出来ない凝視の中で眼と腕を蠢かせる<悪魔> そして不意に、ピタリと視線が合った。 顔ほどもある眼球。その異様な瞳孔がしっかりと自分に合わせられるのを、錯覚ではなく確かな実感として感じる。 総毛立つ。大脳を横殴りにするようなショックと共に激しい嘔吐感が込み上げてきた。 「ひぃぅ……っ!」 引き攣るように呼吸が止まった。 あの<悪魔>は、ボクを『見ている』―――! 「ぅ……うわぁあああああああああああああっ!!」 悲鳴。紛れも無く、一切合財の外面をかなぐり捨てた魂の悲鳴。 惨めに後退る、エリオ。そんな僅かな逃亡など欠片も意味はなく、ガジェットのアームベルトが伸びて襲い掛かった。 槍の刺突のように鋭い直線攻撃。 咄嗟の防御は恐怖に対する回避本能以外の何物でもなく、盾にしたストラーダごとエリオの体は後方へ弾き飛ばされた。 車上をバウンドし、その勢いのまま走る車両の外へと転がり落ちる。 回転する視界の中でかろうじて状況を察知し、慌ててストラーダを車両に突き刺して落下を逃れた。 しかし、相対する敵は窮地から逃してはくれなかった。 まだ残る機械の部分に供えられた火砲にレーザーの光が灯る。 脳裏に死が横切った。覚悟など出来ない、ただ恐怖だけが塗り重ねられる。呆気なく熱線は解き放たれた。 その瞬間、白い影が立ちはだかった。 「ケリュケイオン、シールド!!」 キャロ、叫ぶその声に恐れなど無く。クロスした腕の前に発生した障壁がレーザーを受け止めた。 幼い少女の食い縛った歯から漏れる苦悶。 キャロは召喚師であって元来は魔導師ではない。通常魔法の行使の経験は浅い身、しかもシールドは戦闘型のスキルだ。 弱弱しい出力のシールドはレーザーとのぶつかり合いで対消滅し、砕け散る。 既に<竜魂召喚>で消耗した体から、更にごっそりと何かが失われていく。 脱力感を堪え、人として戦うことを決めた少女は力の限り叫んだ。 「<ブラストフレア>!!」 『ギュアッ!!』 本来の姿を再び失ったフリードもまた、その言葉に応える。 やはり消耗し尽くした体で生み出す炎は弱弱しく。しかし何としても吐く、どんな相手だろうと<悪魔>には牙を剥く。 真の力とは程遠い小さな火球が発射された。 アームで弾くまでもなく、未だ健在するAMFによって直撃する寸前で消滅する。 やはり一度損傷したせいか範囲を広げられず、AMFの出力も落ちていたが、火力の衰えた一撃を防ぐことは出来る。 しかし、相棒の稼いだ時間をキャロは少しも無駄にしなかった。 「―――錬鉄召喚<アルケミック・チェーン>!!」 広げた両手の先に展開される召喚魔方陣。そこから生え出るように出現した有刺鉄線の鎖が、何本も敵に向けて伸びる。 激突するアームと鎖。鋼の触手が敵とキャロの間で複雑に絡み合い、互いの領域を侵食するように激しい軋みを上げた。 鎖が自分の腕の延長であるように力み、敵の力とかろうじて拮抗するキャロ。 無機質の鎖に動く力を与えているのはキャロ自身である。力尽きればどうなるか、結果は明らかだ。 その光景を、エリオは這い蹲って見ていた。 「キャロ……」 彼女は、戦っている。 自分が守ると決めた、守れと任せられた少女は、逆に自分を守る為に戦っている。 もう戦う力など残っていないのに揺ぎ無い意思で、まだ戦う力を残しながら怯え竦む自分の前に立ち塞がっている。 その光景を、エリオは見ていた。 無様に這って、震えて、竦んで―――ただ見ていた。 「ボク、は……っ」 こぼれそうな涙を必死で押し留め、自分でも何を言うつもりなのか分からない言葉を区切る。 そして、誰かが致命的な言葉をエリオに告げた。 『―――お前、何をやってるんだ? この腰抜け野郎』 心の内に響いたそれは、確かに自分の声だった。 車両の内と外で四人の戦いが繰り広げられている頃、その上空でも人間と悪魔との戦いが展開されていた。 ハーケンフォームを取った光の鎌<バルディッシュ・アサルト>が死神の鎌を受け止める。 「この……っ!」 戦いの声もなく、狂ったように笑いながら鎌を振るい続ける死神の姿に本能的な怖気を感じ、フェイトは閃光の如き一撃を薙ぎ払った。 プラズマの刃が確かに死神の胴体を切り裂く。 しかし、それはまるで霞を斬ったかのように手応えを感じない。 ゆらゆらと揺らめくローブの下には体など存在しないのか。 切り裂いたはずの裾さえ、実体を持たない霧のようにいつの間にか揺らめきを取り戻している。 《Axel Shooter》 「シュート!」 周囲を取り囲む敵に向けてなのはがアクセルシューターを解き放った。 数には数を。しかし、その魔力弾全てが正確無比にして必殺である力を秘め、桃色の流星が死神の群れに降り注いだ。 漂うように飛び回る死神の動きは決して速いものではない。全ての魔力弾がそれぞれの標的に命中する。 だがそれらもまた効果は得られなかった。 ガジェットの装甲すら貫通する魔力弾を大鎌で弾き飛ばす、あるいはフェイトの時のように攻撃が体をすり抜けるだけだ。 「まいったなぁ……のんびりなんてしてられないの、にっ!」 悪態を吐きながらも、なのはは背後から斬りかかって来た死神の攻撃を素早く回避する。 近接戦闘には不向きななのはであっても対処できない攻撃ではない。数の多さで死角を突かれ易いが、単純だ。 純粋な戦闘力の面でならば、なのはとフェイトが完全に凌駕している。 しかし、その姿のままに幽鬼の如き敵はあらゆる攻撃を無効化していた。 「ひょっとして、本当に倒せないの……?」 トンッと互いの背中が当たり、背中合わせになったなのはとフェイトは一瞬だけ視線を交わした。 「どうしたの、なのは。弱気?」 「まさか。幽霊の退治の仕方ってどんなものなのか、ちょっと興味を持っただけだよ」 「じゃあ、試してみようか」 触れることすら困難な死神の群れ。 自分達の命を刈り取ることを求め、汚れた殺戮への本能で残酷に笑い続ける異形の者達。 人の正気を失わせるような異常の只中にあって、しかし二人の持つ強さは全く衰えることはなかった。 「アイツらは幽霊なんかじゃない―――」 未だ右手に宿る疼くような痛みと一緒にバルディッシュの柄を強く握り締める。 この手に流れる血は、生きている証。 そう、生きている。 ならば、抗い続けよう。この生を諦めさせようとする絶望の哄笑の中で。 「この手の痛みが訴えてる。奴らは『触れる』『感じ取れる』そして……『打倒出来る』って!」 金色の魔導師の瞳の奥で迸るのは、人としての意思。あたかも雷光の如く。 バルディッシュの持つプラズマの刃が稲妻のように輝き、轟いた。 「<ハーケンセイバー>!!」 バルディッシュを振り抜くと同時に、形成された魔力刃が独立して高速で射出される。 スパークを繰り返しながら回転し、一体の死神を完全に補足追尾して襲い掛かった。 (全ての攻撃がすり抜けるなら、何故さっきなのはの魔力弾を防御した……?) 時間差で同じ標的に向けてフェイトも突撃する。 高速で飛行するフェイトを捉えきれないのか、あるいは奴らに仲間意識など存在しないのか、二つの閃光が飛ぶ先に障害はなかった。 (あの鎌が実体である以上、別に実体化した箇所もあるはず。それが本体だ!) 飛来する雷の刃を死神の鎌が受け止める。 なのはのアクセルシューターを超える威力を秘めた魔法だったが、それすらも弾き散らして見せた。 しかし、いなすにはやはり容易くなかったか。反動で正面に構えていた鎌が大きく逸れた。 がら空きになる敵の懐。 ゆらゆら揺れるローブの中に肉体が存在しないことは確認済みだ。 ならば狙うのは、あの時アクセルシューターの軌道上にあった―――。 「その仮面だ!」 フェイトは、勢いを乗せたバルディッシュの先端を仮面に狙い定めて突撃した。 自らが弾丸となった一撃は仮面を粉々に砕き、フェイトの存在そのものが死神を貫くように突き抜ける。 おぞましい悲鳴が響き渡った。 まさしく断末魔のそれを張り上げ、顔面を失った死神の体は四散する。 鎌は空中でガラス細工のように砕け散り、バラバラに千切れ飛んだローブは破片に至るまで空中で消滅した。 「―――やれる! なのは、弱点は仮面だ!」 「了解!」 撃破の余韻もなく、すでに次の標的に向けて飛ぶフェイトの声になのはもまた応える。 闇に押し潰されるだけの人間が自ら光を掴む瞬間に居合わせた悪魔達は、恐れ戦き、笑い声は悲鳴に変わった。 彼らは<人間だけが持つ力>を知らない。 二千年以上前からずっと、彼らは気付かない。 「シュートッ!」 再びなのはのアクセルシューターが火を吹いた。もちろん、同じパターンを繰り返すほど愚かではない。 誘導魔力弾は正確に『死神の持つ鎌』を直撃する。 攻撃を防御させるのではなく、自ら彼らの持つ攻防一体の武器を狙ったのだ。 掬い上げるような軌道、叩き下ろすような軌道、あらゆる方向から飛来した魔力弾が死神の鎌を叩いて逸らす。 「ダブル!!」 間髪入れずに用意されていた第二射が発射された。 意図的に作り出された防御の隙間目掛けて桃色の光弾が飛んでいく。 最初に魔力弾を当てた標的全てに誘導マーカーでも取り付けられていたかのように、魔力弾は一発残らず直撃し、仮面を破壊した。 奇妙な合唱団のように幾つもの断末魔が空に響き渡り、そして合唱に参加した者から消えていく。その数は10近い。 死神を薙ぎ払う桃色の閃光。霧散していく黒い残滓の中心で、武神の如き威容で白い魔術師は佇んでいた。 その背後から迫る、鎌。 死角から投擲された鎌がフェイトのハーケンセイバーのように高速回転し、追尾機能まで持った不規則な軌道でなのはに襲い掛かった。 少女の柔い体を貫き、血に濡らさんと迫る死神の大鎌。 残酷な一撃は―――なのはの背後に発生した障壁によって完全に遮られた。 「……ダメじゃない」 シールドと拮抗して甲高い音を立てる刃の火花を眺めながら、ゆっくりとなのはが振り返る。 そしておもむろに手を伸ばすと、完全に力を相殺されて単なる鉄の塊と化した鎌の刃を無造作に掴み取った。 「唯一の武器を、考えもなしに手放したりなんかしちゃったら……」 その手の中で魔力を使い尽くして実体化すら出来なくなった鎌がパリンッと砕けて割れた。 視線の先、得物を失って呆然としている(ように見える)死神に向けて、天使の笑顔を浮かべるなのは。 右手のレイジングハートに宿った魔力が凶暴な瞬きを繰り返し。 「この一撃、どうやって避けるのカナ?」 そして、聖なる砲撃が解き放たれた。 迫り来る圧倒的な破壊の光に<悪魔>は哭き叫ぶ。 白い天使に微笑みかけられた死神の末路など、語るまでもない。 闇の蠢く空は、今や徐々に晴らされようとしていた。 「リニアレール、阻止限界点到達まで10分を切りました!」 混乱を切り抜けた司令室から、緊迫感まで抜けたわけではなかった。 例え車両の動力を止めても、実際に走行停止するまでには時間と距離が要る。 その最終限界点となる地点も刻一刻と迫っていた。 「終点には応援の空戦部隊が待機終了しました」 「ごくろうさん。来てもらって悪いけど、無駄になることを祈ろうか」 「……間に合わなかった場合、どうなさるおつもりですか?」 他の局員に聞こえないようはやてに耳打ちするグリフィスの心境は、実質死刑の内容を聞く受刑者に等しかった。 最悪の事態を回避する為の最終手段など、やはり最悪のものになるに決まっている。 「決断するだけや」 具体的な返答を避けるはやての瞳に、しかし躊躇いや迷いというものは一切映っていなかった。 「あなたが信じているのか諦めているのか、分からなくなりますよ」 「もちろん、信じとるよ。せやから、こうやって首長くして朗報の一つもで入ってこんか待ってるんや」 司令室で機能しているモニターはシャマルのコントロールする観測魔法の二つしかない。 依然現場の状況はジャミングが掛かったかのように不鮮明だった。 はやては、その観測不良の原因解明を後回しにして、要因となる情報を可能な限り収集している。 同じ過ちは繰り返せない。 彼女は、既に『次』を視野に入れていた。 (<敵>が何者か? 管理局でも噂になっとる謎の襲撃事件。形も、時間も、場所さえ定まらない無差別な悪意……) 殺戮そのものが目的と言わんばかりに襲い続ける。 唯一の共通点である<人間>を標的とした行為。 (いつまでも闇に隠れて一方的に嬲れると思うんやない。『次』はこうはいかんで) 物的な痕跡を残さない事件ゆえに、局内でもおざなりに扱われてきた一連の事件を見直す必要がある。 例えその所業が<悪魔>の仕業と揶揄される程に異常で現実味の無いものであっても、今目の前で起こっている状況とこの無力感を忘れぬ限り―――何処までも追い詰める。 この世の常識を超えた存在を相手に、はやてはただ怒れる瞳を向けていた。 「……私らを敵に回したのが間違いや。人間の力を舐めるなや、<悪魔>ども」 闇への恐怖を超える汚れない怒りを持つ人間がいる―――。 上空を移すモニターでは、反撃ののろしが上がっていた。 有刺鉄線の触手とアームベルトが酷く耳障りな音を立てて軋み合う。 巨大なガジェットと幼い少女の間では奇妙な拮抗が成り立っていた。 「フ、フリードッ!」 キャロの命令に従ってフリードがブラストフレアを発射する。 もはや十分な火力を集束する余力も無い。弱弱しい火球がAMFにかき消される。 かまわずにフリードは血を吐くに等しい思いで炎を吐き続けた。 たとえそれが全て敵に届く前に消滅する運命にあっても、水滴が巨壁を穿つが如く何度でも放ち続ける。 その竜が幼い体に宿す意志の強さは、先ほども見たばかりだ。 未だ地面に這ったまま、震え縮こまってエリオは一人と一匹の戦いをただ見ていた。 (だ……駄目だ。立てない……っ) 足に力が入らなかった。 傷や疲労などではない。ただ心が折れている。 ―――あんな化け物となんて戦えない。 (怖いんだ、ボクは……!) 感受性の強い子供であるエリオには、ガジェットに寄生した存在の生々しい瘴気を敏感に感じ取ることが出来た。 気高い決意を失うのと引き換えに、死を超えた純粋な恐怖を思い出す。 自分が何故こんな所で戦うことを選んだのか、それすらも思い出せなくなっていた。 力は残っている。頭も回っている。なのに心だけが動いてくれない状況で、ただ見ることだけに集中していたエリオは異変に気付いた。 「あれ、ケーブルが……!?」 キャロの魔法と拮抗するアームベルトとは別に、ガジェットの細長いアームケーブルがいつの間にか足元に突き刺さっていた。 車上の屋根を貫通して内部まで侵入している。 その行動から導き出される推測が閃きと共に脳裏を走り抜けた。 「―――キャロッ! 足元だ、下から来る!」 「え?」 警告は間に合った。しかし、すでに敵を押さえ込むので手一杯だったキャロには何の意味も成さなかった。 意識を足元に向けた瞬間、屋根を突き破って何本ものアームケーブルが突出してくる。 車両内部を通って迂回し、奇襲を仕掛けたのだった。 「あぅ……っ!」 『ギュァッ!?』 疲労したキャロ達に成す術は無かった。 キャロは四肢を縛られ、細い首を締め上げられて宙へと持ち上げられる。抵抗するフリードには猿ぐつわのようにアームが絡みついていた。 魔方陣が消滅し、力の拮抗は容易く失われた。 そして、全く脅威ではないと判断されたエリオは、ただ一人無力なまま放置される。 「あ……ぁあ……」 少女の窮地を目の前にして、やはり体は動かない。 動け。助けに行け。何やってるんだ腰抜け。この役立たず。いくじなし―――! どれだけ自分自身を罵倒しても、恐怖に凍りついた心を奮い立たせることが出来なかった。 意思に反して動かない全身の筋肉が引き攣る。 何かが自分の足を引っ張っている。その何かを、忘れてしまった『この道を選んだ理由』さえ思い出せば消し去れるのに。 どうしても思い出せない。 ただ怖い。 敵が怖い。自分が傷付くのが怖い。そして、目の前で誰かが傷付くのも怖い。 「エ……リオ……くん」 小さな体を無残に締め上げる苦痛の中で、キャロが背後のエリオを見た。 苦悶の表情に震える声が痛々しい。 しかし何よりも、助けを求められることが辛かった。 今の自分に応えることは出来ない。裏切ることしか出来ない。 エリオは全てを拒絶するように頭を抱えて蹲り―――。 「逃げて!!」 キャロは決然と言い放った。 「え……?」 見上げた時、もうキャロは自分を見てはいなかった。 縋ることもせず、乞うこともせず、彼女はすでに再び敵を見据えていたのだ。 「キャロ……」 エリオはその姿を呆然と見ていた。 混沌としていた感情は今や跡形も無く消え去っていた。だがこれは絶望ではない。ただ強いショックを受けた。 体の中から何かが溢れてくる。 恐怖も後悔も吹き飛んで、頭の中は真っ白になった。 「ボクは」 必死に探していた答えが、別に何ということはなく目の前に転がっていた。 何故自分は、戦うことを選んだのか。何の為に戦おうとしていたのか。 出撃の前は疑問にも思わなくて、この<悪魔>を前にした時に見失って、そして今前以上の強い高ぶりと共に蘇ってくる。 ―――他人の痛みを気遣う人。 そんな人の強さと優しさに救われて、自分もまた誰かの痛みを止めたいと思って選んだのだ。 「ボクは!」 忘れ去った自分に、その答えを見せてくれたのがキャロだった。 自分が勝手に守ろうと思っていた少女は、この恐怖に震える臆病者よりずっと戦う意味を知っていた。 こだわっていた―――! 「―――うわぁああああああああああああああっ!!」 その一声で、少年は戦士に戻った。 立ち上がり様、車上に突き立つ鈍器と化していたストラーダを抜き放つ。それだけで鉄塊は聖なる槍へと変貌した。 力の入らなかった手足には、もう圧倒的な力が宿っている。 高々と掲げられた、決意の証。 それを振るえば、斬撃の閃光がキャロとフリードの戒めを尽く切断した。 「お前なんか怖くない! いっくぞぉぉぉーーーッ!」 《Sonic Move》 停止していた時間を取り戻すように激発するエリオの心に、ストラーダの電子音声が応えた。 超高速移動魔法、発動。 瞬時に音速の壁を突き破る。駆け出したエリオは時間を置き去りにして疾走した。 蘇った敵意を察知して伸ばされるアームベルト。遅い。遅すぎる。足を狙った攻撃を容易く跳び越えた。 真っ直ぐに伸びた腕を足場にしてエリオは駆け上がった。本体の頭上を蹴りつけ、更に飛翔した。 魔法が解除された時、エリオはすでに敵の遥か後方へと着地していた。 遅れて解放されたキャロとフリードが尻餅をつく。 「ストラーダッ!」 十分に離された距離。しかし、これは敵の攻撃を警戒してのものではない。 「カートリッジ、ロード!!」 金属質なコッキング音。次の瞬間爆発的な魔力がデバイスを伝ってエリオ自身にも漲る。 槍の穂から魔力をロケットのように噴射して加速した。 スピーアアングリフ。短時間の飛行すら可能な推進力で行う突撃。離した距離は、銃弾が加速する銃身の如く。 走行中の車両が止まったように見える加速の中、恐れを失くした瞳が標的を静かに補足した。 ただ単純に突くだけではない。狙いは正確無比に、最初の戦闘でエリオ自身がつけた背部の傷。 寄生生物の肉で補修されながらも、その一点だけ装甲の無い部分へ、AMFを突破してストラーダの先端が狙い違わず突き刺さった。 鉄ではなく肉を切り裂く感触。 出血も悲鳴もないが、確かな手応えがエリオの手を、そして激突の衝撃が敵の体を震わせる。 しかし、足りない。 AMFによって威力を半減され、硬い外殻の代わりに衝撃を吸収する柔らかい外皮を得たガジェットは致命傷を負わなかった。攻撃の届きが浅い。 「がぁあああああっ!!」 だが、吼える。 荒れ狂う心は止まることを命じなかった。 「カートリッジ、ロードッ!」 再度コッキング音。 自らの体とデバイスに掛かる負担すら忘却した、ただ一つの強大な意志がエリオを突き動かした。 刺さったままの穂先から魔力が爆噴し、発生した推進力が衝撃と刃を更に敵の体内へ送り込む。 「ロードォ!!」 連続して三度目のカートリッジロード。もはや魔力増幅というより、見た目通りの銃撃に等しい衝撃と反動。 パイルバンカーのように押し出されたストラーダがもう一度敵の体を激震させた。 今度こそ致命傷だった。血が噴き出し、エリオを引き剥がそうとしていた腕は痛みを訴えるように暴れ回る。 とどめを刺すべく、エリオは最後の撃鉄を起こした。 「これで、終わりだぁああああーーー!!」 《Stahlmesser》 渾身の力で押し出したストラーダが体内の機械や生体部分を切り裂き、同時に先端から魔力刃が伸びて、完全に敵の体を貫通した。 命というものがあるのならば、機械と生物の融合した歪な存在のそれを確実に奪った一撃。 一瞬の停滞の後、自分に与えられた死を思い出したかのようにガジェットは爆発四散した。 「エリオ君……!」 爆発の煙に飲み込まれて消えたエリオの姿を探して、キャロは叫んだ。 心配するまでもなく、跡形も無く吹き飛んだ敵の残骸と黒煙を横切り、煤だらけの姿になったエリオがフラフラと歩み出てくる。 「エリオ君、大丈夫!?」 「……やあ、ゴメンね。助けるの遅くなっちゃって」 無理な魔力行使と疲労でボロボロのはずなのに、妙に清々しい笑みを浮かべるエリオの言葉に首を振る。 キャロの心に迫るものがあった。かつて、初めてフェイトと出会い、そして彼女が自分の為に怒るのを見た時のような。 「ありがとう……」 「お礼を言うのは、こっちだよ……ボクにはまだ意地があることを、思い出させてくれたんだ……」 満足そうに呟くと、エリオは静かに目を閉じた。心身共に戦い抜いたゆえの結果だった。 幼い少年は、誰もが怯える闇を踏破する道を切り開いたのだ。 キャロは横たえられた少年の体を愛しげに抱き締めた。傍らのフリードもようやく羽を休める。 この場所での戦いは終わったのだ。 ただ一つ、無限と錯覚するような<悪魔>の新たな出現を除いて―――。 ガジェットの爆心地から、煙に紛れて這い出てくる一匹の蟲の姿。 爆発から逃れたものか、列車に寄生していたものか。疲弊したキャロ達の新たな敵となろうと、数を増やしながら迫ってくる。 その様を、キャロは見ていた。 「……バカにするつもりなのかな?」 酷く冷めた瞳で。 「エリオ君やフリードの頑張りを―――」 二人の大切な友達がやり遂げた戦いを、無粋に続けようとする者達。 憎悪や恐怖などではなく、侮蔑するような暗い怒りを宿した瞳で蟲を一瞥した瞬間、それらはキャロの意思のままに消え去った。 突然地面に広がった染みのような影から、黒い牙を備えた巨大な口が生えて一瞬で蟲を飲み込んだのだ。 車両全体をモニターするシャマルの観測魔法でも捉えられない瞬間的な出来事だった。 「……消えて。もう、あなた達<悪魔>に穢されるものはない」 蟲も、それを喰らった影も、今度こそ全てが消え去った場所で、呟いたキャロの言葉は一体『どちら』に対するものだったのか。 自分の影の中で、血のような赤い瞳を持った獣が蠢くのを彼女は確かに感じた。 また一匹、そのあまりに緩慢な動きで必中の腕を持つ射撃者の前へ躍り出た愚かな虫けらを閃光が撃ち抜いた。 平均的な魔力量を高圧縮することで反動による弾速と貫通力を高めたティアナの魔力弾は、その特性上ダメージ範囲が酷く小さい。 体の中心に穴を穿たれながらも原型を留めてもがき続ける蟲を無慈悲に踏み潰し、ティアナは進んでいく。 その後に荷持ちよろしくレリックのケースを抱えながらついていくスバルは、淡々としたパートナーの動きに全く未知の感情を抱いていた。 ティアは今、何を考えているんだろう―――? この予測不能の異常事態に対して、見る者に怖気を走らせる奇怪な蟲の群れを前にして、彼女はあまりにも普段通りで『在り過ぎる』 一切躊躇の無い射撃の先、蠢く謎の存在に対して何を感じているのか? スバルには全く理解が及ばなかった。 「……ティア、さっきからその赤い変なのに触ってるけど、大丈夫なの?」 蟲を倒した後で必ず出現する赤い石。 丁度魔力スフィアのようにぼんやりとした輪郭と、重量がないかのように浮遊するソレは物質ではありえない。 しかし、それ以外の説明がつかない全く未知の物でもあった。 管理局において<レッドオーブ>と仮称されるその謎の石を、ティアナは何の躊躇いも無く触れる。手で、あるいは進路上を横切って。 そしてまるで吸い込まれるように、赤い石は彼女の体の中へと消えていくのだ。 「なんだか血みたいだし、蟲の体から出てきたんでしょ? 絶対健康に良くないよ」 「問題ないわよ」 何処か的外れなスバルの警告にも、振り返ることすらせず返す。 その言葉が単なる楽観なのか、それとも実はティアナ自身その赤い石に関して何らかの情報を持っているのか。 どちらとも取れない平坦な声色だった。 その冷静さがスバルには本当に少しだけ、怖かった。 親しい人間の全く未知の部分を覗き見た時に感じる感情だった。 「―――着いたわよ」 そしてやがて、三人は先端車両に通じるドアの前に辿り着く。 ティアナが先頭に立ち、スバルがリインを守るように後方へ控えた。 これまでの経験、流れから推測し、三人はほとんど確信のように感じていた。 このドアの先で<敵>が待っている―――。 「……用意はいい?」 「うん、レリックと曹長の護衛は任せて」 「わたしのことは気にしないで下さいです」 ティアナは二人の顔をそれぞれ一瞥し、クロスミラージュを握ったままその銃口で開閉装置のスイッチへ手を伸ばした。 ドアの向こうで息を潜める敵の姿を幻視し、一呼吸置いて―――すぐさま体を横に倒した。 コンマの差で、巨大な拳がドアを突き破り、ティアナの頭があった場所を薙ぎ払う。 「ティア!?」 「下がって!」 傍で見ていたスバルよりもティアナの方が動揺は少なかった。 体を捻った無理な姿勢で、ドア越しにすぐさま撃ちまくる。着弾を示すように、突き出た腕が痙攣のように何度も震えた。 世にも恐ろしい叫び声が響き渡る。 それは痛みに対する苦悶のようでもあり、怒りのようでもあった。 「どうやら、害虫駆除ほど簡単にはいかないようね」 獣のような雄叫びに、蟲以外の<悪魔>の存在を確かめたティアナがドアから距離を取りながら不敵に笑う。 その笑みは普段の真面目な少女が見せる悪戯ッ気を含んだ皮肉交じりのそれではない。薄暗い感情が浮かび上がらせた冷笑だ。 その裏の顔を、背後のスバルが見れなかったことは幸運だった。 更なる幸運は、スバルが何か行動するよりも早く目の前のドアがブチ破られたことだった。 貫いた腕でドアの淵を掴み、紙細工のように引き剥がすと、その腕の主の全貌が明らかになった。 2メートルを超え、天井に頭が着きそうな全長を誇る姿は山羊と人間を掛け合わせた禍々しいもの。 然る場所では<ゴートリング>と呼称される、以前ダンテが対峙した悪魔の亜種だった。 『ニンゲンガ! 傷、傷ツケタ! ニンゲンガ我ラ二傷ツケタ!!』 その化け物は人語を解して自らの憎悪を露わにした。 スバルとリイン、その超常的な存在の登場に加え、発せられた言葉を受けて驚愕の極みに達している。 ただ一人、ティアナだけが笑っていた。 「喋れるのね……でもあんまり頭は良くないみたい。筋肉以外にもちゃんと詰まってるの?」 嘲るようにして肩を竦めて見せる。 完全な嘲笑。人智を超えた闇の存在に対して、ティアナが抱いているのは不快感とそこから来る敵意だけだった。 人外は怒り狂って咆哮する。車両全体が震えるような奈落から、響く怒号。 『ニンゲンガ! ニンゲンガァァッ!!』 「うっさいのよ、人間で悪い? この―――<悪魔>が!」 ティアナが応える感情もまた、怒り。 互いの存在をこの世から抹殺する為に、両者は行動を開始した。 自身のウエストほどもある豪腕が唸りを上げて迫る。ハンマーのような左ストレートをティアナは前転する形で進みながら回避した。 素早いローリングで巨体の股下を潜り抜ける。 敵の背後を取ると、クロスミラージュを蹄を持った足に向けて雨のように撃ち下ろした。 魔力弾が腿の肉を食い千切り、世にもおぞましい山羊の悲鳴が響き渡る。 巨体が崩れ落ちた。それでも苦痛を憎悪に変える闇の権化は体を捻って背後を振り返る。 迎えたのは旋風のような回し蹴り。 格闘技の基礎はなく、実戦の中で『必要だから覚えた動作』といった感じの荒削りな一撃は、山羊の鼻っ柱を叩き潰して体を大きく仰け反らせた。 「あんた達<悪魔>を狩る人間もいるのよ」 背中から転倒したゴートリングを見下ろし、額に照準を合わせたティアナ。 両腕には放電にも似た現象を起こすほどの魔力がチャージされていた。 攻撃の威力を半減する巨体であっても、このチャージショットを受ければ肉が弾け、大きく抉られる。 勝利への喜悦も余裕も持たず、ティアナはただ怒りを持って引き金を引こうとした。 『―――ッギァアアアッ!』 断末魔にも似た咆哮。しかし、それは<悪魔>の反撃を意味していた。 足と腰の筋肉、二つを合わせたバネのような瞬発力に、ゴートリングの蹄が跳ね上がった。 「く……っ!?」 変則的なサマーソルトキック。まともに受ければ肋骨を砕いて心臓にまで到達する一撃がティアナに向かって伸びる。 咄嗟にクロスしてガードに回した両腕がメキメキと耳障りな軋みを上げた。 (バリアジャケットの衝撃緩和が気休めにしかなってない……っ!) ティアナは悪態で激痛を誤魔化した。 体が真上に浮く。浮遊感など感じない、ただ衝撃だけが走り抜ける。 両腕をそのまま肩越しに背後へ向け、本来は目の前の敵にぶち込むはずだった弾丸を背後に迫る天井へ向けて解き放った。 強烈な弾雨が屋根をズタズタに引き裂き、崩落するそれを突き破ってティアナは車両の外まで吹き飛ばされた。 両腕には激痛が走り、全身に行き渡った衝撃が内臓を撹拌する。 空中に放り上げられながらも、天井とのプレスにならなかっただけマシだった。 ティアナの体はそのまま車両から投げ出される軌道を取っている。 「ティアァァーッ!!」 スバルの悲痛な声は、しかしもうティアナの耳には届かなかった。 もうこの世界には、彼女と彼女の敵の二つしか存在しない。 脳内から吹き出すアドレナリンが痛みと感覚を麻痺させる。車上へと跳び出す敵の姿が改めて自分の戦意を滾らせてくれる。 久しくなかった緊張感。 久しく奮わせていなかったこの気持ち。 「<悪魔>―――お前らを、この世から一匹残らず消してやる!」 兄の命を奪い、穢した悪しき存在達に対する殺意が、ティアナの中で完全に蘇った。 《Air Hike》 クロスミラージュを使うことで完全な形となった魔法が発動する。 足元に発生した魔方陣の足場を蹴りつけ、軌道を変更して車上へとティアナは着地した。 カートリッジ、ロード。魔力が漲る感覚を覚えながら、眼前を睨み据える。 『ガァアアアアアッ!!』 強靭な脚力を駆使して、ゴートリングが素早く襲い掛かってきた。 『右腕だけ』に魔力を集中させる。しかし、当然のようにチャージは迎撃に間に合わない。 鋭い爪を使った覆い被さるような攻撃。後方に跳んでティアナはそれから逃れる。 空振りに終わった攻撃の後、悔しげに唸りながら敵は再び脚に力を込め、視界を上げた時自分に向けられた銃口を捉えて素早く防御の姿勢を取った。 筋肉の鎧を貫く魔力弾の貫通力は凄まじいが、一発一発は致命傷に成り得ない。そう判断していた。 しかし―――。 《Snatch》 クロスミラージュが発したものは銃声ではなく電子音声だった。 魔力弾の代わりに、銃身に並んだ上下の銃口のうち下の方から魔力糸が射出された。 アンカーショットをワイヤーから魔力の糸に置き換えたそれは、身構えていた敵を嘲笑うように痛みもダメージも無く横腹へ命中する。 「Catch this!」 ティアナは会心の笑みを浮かべた。さあ、オーラスだ。 次の瞬間、魔力糸が巻き戻るように縮み始め、不意を突かれたゴートリングの巨体が一気に引き寄せられた。 アンカーショットは本来、移動補助用に搭載された機能だが、攻撃的なスキルを重視するティアナが単純な使い方をするはずもない。 眼前まで一瞬で引き寄せられた敵。無理な力が働き、バランスまで崩した無防備な下腹にティアナは右腕を突きつける。 その瞬間まで、ただ延々と魔力を練り上げ、集束させていた右腕とクロスミラージュは、オレンジ色から赤色へとより濃密に変化した魔力光を宿していた。 ―――魔導師が生来持つ魔力の色。それが変化することの意味を、今はまだティアナ自身も気付かない。 通常のチャージショットより更に一歩危険な領域へ踏み込んだ、暴走染みた魔力の集束。 回避のしようがないゼロ距離で、ティアナはついにそれを解き放った。 炎のような殺意と共に。 「―――死ね!」 爆裂。 雷鳴のような音と激しい銃火が幾度も瞬き、その度に小柄なティアナの体に覆い被さるような巨躯が痙攣した。 もはや砲弾とも表現出来る重い銃撃がゴートリングの体内に潜り込み、ついに背中を突き破って空中へと消えていく。 全ての弾丸を撃ち終えた時、敵の体からあらゆる力が抜け落ちていった。 倒れこんでくる巨体から慌てて抜け出し、距離を取る。 幾つもの穴を穿った体は完全に倒れ伏した。 警戒は解かず、クロスミラージュを向けたまま見下ろすティアナの視界で敵の体が砂のように崩れて朽ちていった。 跡形も残さない、これが<悪魔>の死だ。 「……形も、時間も、場所も関係なく現れては消える」 かつては幾度も見ていた。 魔導師としての生き方を始めて、久しく忘れていた。 この光景が、ティアナの中に眠っていた『執務官になる』という夢とは別の、もう一つの誓いを鮮明に思い起こさせている。 やがて<悪魔>の死骸が完全に消え去った時、残るものは奴らの血の結晶だけ―――。 より強力な<悪魔>ほど、死す時に多くの<血>を残す。 それが人の身に及ぼす影響を、ティアナはぼんやりと理解していた。 高位の<悪魔>を倒したからなのか、あるいは第三者の意思が介入したのか、車両を覆っていた瘴気が霧散していくのを感じる。 <悪魔>の結界も解除されるはずだ。蟲も消えたのなら、車両のコントロールとて簡単に取り戻せるだろう。 しかし、戦闘の終結した空気の中で、ティアナの瞳に安堵は浮かばない。 「無限に現れるというなら、私は無限に倒すだけよ」 悲壮感すらなく、ただ固い決意を宿した独白が流れた。 その為に、力が要る。 ティアナは無造作に手を伸ばし、目の前に漂う<レッドオーブ>に触れた。 途端、それらは一つ残らずティアナの肉体に吸収される。 自分の体に悪魔の血肉が入り込むことへ嫌悪感も見せず、ただ淡々と受け入れる。それがもたらす結果と共に。 ―――しかし果たして、その時ティアナは本当に冷静だったか? 常に冷静さを忘れず、思考し、状況に対応する。 それがティアナを知る、スバルを代表とした多くの人間の評価だ。 だがこの時。<悪魔>と対峙した時。自ら死地に飛び込み、打ち滅ぼすことに全てを注いでいたティアナのあまりに強い意志は―――果たして冷静と呼べるものだったか? ティアナ自身にも、それは分からない。 ただ一つ確かなことは、原初の誓い。 兄の亡骸を前に、夢という名の未来と仇という名の過去へ向けて誓ったこと。 「……兄さんの、安らかな眠りの為に」 悪魔、死すべし―――。 to be continued…> <ティアナの現時点でのステータス> アクションスタイル:ガンスリンガーLv1→ LEVEL UP! →Lv2 NEW WEAPON! <クロスミラージュ> 習得スキル <トゥーサムタイム>…二方向へ同時に射撃を行う。真後ろにも対応可能。 <ラピッドショット>…クロスミラージュの性能によって、連射性と威力が若干向上した。 <エアハイク>…デバイスの補助により完成形となった。瞬間的な足場を作り、シングルアクションで空中での機動を可能にする。 <チャージショット(Lv1)>…魔力をデバイスと腕に溜めることで、強力な魔力弾を放つ。連続して数発撃つことも可能。 <チャージショット(Lv2)>…新しいデバイスの負荷耐性を考慮し、チャージ時間を増やすことで威力が倍近く向上した。 <チャージショット(ワンハンド)>…片腕だけで行うチャージショット。火力は低下するが、片腕が空くので別のアクションも同時に行える。魔力操作に優れたティアナのみのスキル。 <スナッチ>…魔力糸によるワイヤーショット。高所への移動手段や、物体や敵に使用すれば手元に引き寄せることも出来る。 <???>…新デバイス入手により、より多くのスキルを習得できる可能性を得た。更なる経験とオーブを手にせよ。 訓練により補助系魔法<フェイクシルエット>を習得間際であるが、戦闘スタイルの変化の為、ティアナが想定する補助性能は低めである。 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第19話『ホテルアグスタ攻防戦 後編』←この前の話 『マクロスなのは』第20話「過去」 オークションが終わって隊長陣の警備任務が解けた頃、地上部隊の技研の調査隊がすでにガジェットの破片の調査を開始していた。 「・・・・・・えっと、報告は以上かな?現場の調査は技研の調査隊がやってくれてるけど、みんなも協力してあげてね。あとしばらく待機して何もないようなら撤退だから」 普段の動きやすい青白の教導官の制服に戻ったなのはが、フォワードの4人を前に告げる。 ティアナ達は返事をすると、きびきびと陸士部隊の土嚢の撤去や調査隊の手伝いに散っていった。 (*) ホテル内の喫茶店 そこには警備を終えて一息入れているフェイトとはやて、そしてオークションが終了して手持ち無沙汰になったユーノが仲良く談笑していた。しかし、そこで少し寂しい話題が提供された。 「そう・・・・・・ジュエルシードが・・・・・・」 「うん。局の保管庫から地方の施設に貸し出されてて、そこで盗まれちゃったみたい」 「そっか・・・・・・」 寂しそうな顔をするユーノ。仕方ないだろう。彼がその災悪の根源であるジュエルシードを掘り出した張本人なのだから。 「まぁ、もちろん次元の海は本局が目を光らせているし、地上も私たち六課が追っていく。だから必ず見つかるよ」 「・・・・・・うん。ありがとう」 そこに、この話題には沈黙を決め込んでいたはやてが話に介入してきた。 「・・・・・・実はまだ非公開なんやけどな、この前ガジェットについての報告書が回ってきたんや」 元々物理メディアだったらしい。ホロディスプレイに表示される報告書の表紙。提供は地上部隊・技術開発研究所。しかし表紙には『SECRET(シークレット)』の印が押されている。 「・・・・・・これって僕が見てもいいのかな?」 ユーノが戸惑いながらはやてに聞く。SECRET(機密)の印が押されている書類は規定では管理局の佐官以上でなければ閲覧すらできない。 フェイトですら一等海尉なのに、管理局員でもない民間人に見せていいものではないはずだった。 「大丈夫や、問題あらへん。どうせもうすぐ公開される。・・・・・・でや、まずこの動力機関なんやけど、どうやら簡易化されたジュエルシードみたいなんや」 「「!!」」 「どうやら泥棒さんはジュエルシードの簡易量産に成功したみたいやな」 ホロディスプレイに映し出されているバッテリーに相当する部分の中枢は、ジュエルシードに間違いなかった。 「でも悲観することはあらへん。これと同時にガジェットの製作者も判明した。それが現在、違法研究で広域指名手配されているこの男─────」 ホロディスプレイの画像が切り替わる。瞬間、フェイトの顔色が変わった。 「スカリエッティ!?」 「ん?フェイトは知ってるの?」 ユーノが問う。 「うん。なのはが次元航行部隊、機動課(ロストロギア探索を主な任務にする部隊)に協力していた5年前に。その時、なのはとヴィータ、それと私で彼の秘密基地を強襲したの───── ────────── フェイトは何十体目になるだろう魔導兵器をバルディシュで一閃のもとに葬ると、周囲を見渡す。 周りには太古の遺跡があり、岩でできた建造物が朽ちている。 またすでに魔導兵器の大半は撃破されて、雪の積もる大地に遺跡同様構成部品をさらしていた。 「ヴィータちゃん!」 「おうよ!」 「「これでラストォォ!!」」 上空からのヴィータの魔力球が敵を囲むように着弾。追い詰められて集まった敵を、続くなのはの砲撃で全て葬った。 「ナイスショット。2人とも!」 フェイトの掛け声に、なのはとヴィータはハイタッチした。 (*) 「さて、ここが入り口だね」 フェイトの撫でたその扉は鋼鉄製で、なのはの砲撃でもなかなか破れそうにない程に頑丈だった。 しかし押しても引いてもダメ。無論スライドさせることもできず、開けられなかった。当然だが鍵がかかっているようだ。 「『鍵開け』するから、2人は周りの警戒をお願い」 「うん、お願いね。フェイトちゃん」 「周りは任せときな」 ヴィータとなのははそれぞれ別方向に飛んでいった。フェイトはそれを見送ると高ランク魔法である『鍵開け』を実行する。 この魔法は電子ロックから物理的な鍵までほぼすべての鍵に有効だが、時間がかかるのが難点だった。 フェイトが動けないそんな時、それは起こった。 「なのは!後ろ!」 「え・・・・・・!?」 ヴィータの警告に振り返るなのは。彼女はその半透明の何かを見切ると間一髪で回避。空に退避する。 そしてそれはヴィータの放った鉄球によって大破、沈黙した。 しかし姿を晒したそれが足の付いた地上型だったことや、それが撃破された安心感でなのはは1つの可能性を見逃していた。 『地上型がいるなら、理論上より簡単に姿を消せる航空型がいるかもしれない』と言うことを。 寸前で気づいたなのはは、優秀の一言に尽きる。そして普通の状態であれば問題なく回避できたはずの攻撃。しかし溜まった疲労は彼女の回避行動を寸秒遅らせた。 「「なのはぁぁぁ!!」」 フェイトは確かに見た。空に浮かぶなのはの、小さな体を貫く刃を。 彼女の赤い鮮血によって目視出来るようになった鋭い刃はまるで悪意の塊が友人の体から〝生えた〟ように見えた。 それは人間ならば絶対傷ついてはならない器官の納まっている胸の真ん中から生えていた。 次の瞬間には彼女の体は5メートルほど落下。その衝撃は雪が受け止めるが、ドクドクと怖いほど流れ出る鮮血が雪を染めた。 力なく横たわる大親友の姿と半泣き顔になって彼女に駆け寄るヴィータの姿がぼやけていく。 目の前の光景に現実感が失せていき、いつの間にか視界はブラックアウトしていた。 ────────── 「そんなことがあったんだ・・・・・・」 ユーノが呟く。 この案件は『TOP SECRET(最高機密)』とされていて、彼女の経歴を見てもその事実は確認できず、半年近い入院期間は『持病の悪化に伴う病養』となっている。 そのため家族など極めて親しい者しかこの事実を知らなかった。 だがここで1つ疑問が浮かぶ。 『なぜたった1人の撃墜をそうまでして隠さねばならないか?』という疑問が。 実はすでに流星の如く突然現れ『エース・オブ・エース』という二つ名で呼ばれていたなのはは世間一般に知られ、ヒーローとして祭り上げられていた。 事実それだけの実績もあったし、実力もあった。クラスSのリンカーコアを有しているいわゆる超キャリア組でも、たった14歳で一等空尉に登り詰めるのは容易ではない。 その頃のフェイトやはやてですら、両名とも地上部隊で三尉相当の階級であったことが比較としては適当だろう。(しかし断じて2人が無能な訳ではない。フェイトの所属する本局は事件が少なく、1発が大きい。はやては上級士官を目指し、ミッドチルダ防衛アカデミーの学徒となっていたためだ) そんな出世街道まっしぐらで国民的人気を誇る彼女が撃墜され、瀕死の重傷を負ったのだ。 それがどんな理由であれ公表されれば、管理局全体の士気と信用に関わる。こうなると管理局としては隠さざるをえなかった。 「そう。なのはは今でこそ元気に振る舞ってるけど、一時は「二度と歩けないんじゃないか」って言われて・・・・・・」 俯くフェイト。その背中からは、なのはを撃墜したスカリエッティに対する負のオーラが立ち昇っていた。 「それにあいつは母さんの─────プレシア母さんの研究を続けているらしくて、それがわたしには許せないんだ」 フェイトの母であるプレシア・テスタロッサは、かつては管理局の大魔導士として日夜研究を続けていた。 しかしある日、彼女の実の娘であるアリシアを事故で亡くしてしまった。そこで悲しみに暮れた彼女が手を出したのが禁忌の技術として知られる全身のクローン技術と人造魔導士技術だった。 こうして誕生したアリシアのクローン、それが彼女『フェイト』だ。しかし結局プレシアには受け入れてもらえず、とても悲しい思いをしていた。 「・・・・・・まぁ、とりあえずガジェットの製作者はそのスカリエッティや。ゴーストは第25未確認世界の元の設計から反応エンジンを主機に据えた独自のものらしい。「使われてるオーバーテクノロジーと設計が管理局から漏れたのか?」って揉めてるみたいやけど、当面六課はスカリエッティの線で追っていく。だからユーノくんは無限書庫で関連しそうな情報を調べて欲しいんや」 (そうか。わざわざ機密を聞かせたのはそういうことか) ユーノは納得すると、その依頼を引き受けた。そこに1人の女性が喫茶店の入り口に現れた。 「あ、なのは・・・・・・」 「久しぶりぃ~ユーノくん、元気だった?」 その笑顔に一点の曇りなく、さっきのフェイトの話が嘘だ。という錯覚をおぼえた。 「あ、なのは丁度よかった。これから交代しに行こうと思ってたところなんだけど、交代できる?」 「うん。フォワードの4人は調査隊と陸士さん達の手伝いに行ってるから見てきてあげて」 「わかった。はやても行こう」 「了解や。じゃあお2人さん、〝ごゆっくり〟ぃ〜」 はやてはそう意味ありげに言って外に出ていった。 (はやてここでそのセリフじゃ気まずいよ~!) こころの中で涙声になってしまう。 2人っきりの現状でそのセリフを吐かれては、どうしても彼女を意識してしまうではないか! それについさっきまでその彼女の話をしていたのだ そうでなくとも相手は意中の女性であるというのに・・・・・・ その想いを本人はともかく、周囲に隠し果せているつもりの青年は 「いってらっしゃ~い」 と見送るなのはに視線を向ける。―――――と同時に彼女が振り返った。 「本当に久しぶりだね!ユーノくん!」 「う、うん・・・・・・」 (ダメだ!まともに顔見られない~!) しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。相手がいつも通り接して来てくれている以上、こちらもそれに応えなくては嘘だ。 ユーノは何とか自分に言い聞かせながら顔を上げる。 するとどうだろう?なのはもこちらの事を直視しているなどということはなかった 彼女は少し視線を逸らしつつ、頬を赤らめて口を開く。 「えっと・・・・・・今日は偶然、なのかな?」 (か、可愛い・・・・・・) ユーノはそんな幼なじみの仕草に無意識のうちに胸を高鳴らせていた。だがお互いに意識し合っていたらしいことがわかって反対に落ち着くことができた。 「うん。そうだと思う。聖王教会の騎士カリムからの直々の依頼でね」 カリムによれば、どうやらはやてが 「考古学者さんを探しているんだけど、いい人紹介してくれない?」 というカリムに自分を紹介したらしかった。 「それにオークションの鑑定も本命の1つなんだけど、騎士カリムはこの玉の調査を「どうしても」ってお願いされたんだ」 ユーノの手にはさっきフェイトが落下から救った紫色の水晶が乗せられていた。 (*) 所変わってはやてとフェイトの2人は出入り口の玄関で2人の人物と鉢合わせしていた。 「お、アルトくんにさくらちゃんやないか」 「よぉ。やっと見つけたぜ」 「なんや? 探しとったんか?」 はやての問いに、さくらが答える。 「はい。ちょっと今回の敵がどうも妙だったので、そちらはどうだったのかな?と思いまして」 「そっか・・・・・・実はこっちも妙な報告が上がって来ててな。立ち話もなんやし、もっかい喫茶店に行こうか。フェイトちゃんは外の方をよろしく」 ことの成り行きに戸惑うフェイト。なぜなら今あそこは───── 「・・・・・・それはいいんだけど、今喫茶店に行くのはちょっと・・・・・・」 「あ、そうや。なのはちゃんが─────」 「お、なのはもいるのか。丁度いい。頼みたいことがあったんだ」 スタスタ・・・・・・ 喫茶店に向かって歩いていく2人。それを見たはやては人生でそうない大ポカをしたことを悟った。 5日前にカリムにユーノを紹介したのも実は伏線だった。 カリムにその日 「ある〝物品〟の調査ができそうな人と、ホテル『アグスタ』のオークションで鑑定してくれる人を探しているのだけど、いい人知らない?」 と問われたはやては、迷わずユーノの名を出していた。 能力面になんの問題もなかったし、なにより都合がよかった。ユーノはなのはの撃墜事件以降お互い顔を合わせた事がない。 それはなのはが 「こんな姿を(彼に)見せて心配させたくない」 と言ったことにある。 またユーノも、以前地上本部ビルで偶然会った時、仕事の都合でなのはと全く会えないと嘆いていた。 そこではやてはお節介かもしれないがこんな方法をとったのだった。しかし───── (どないしよう!?2人をくっ付けるなんて簡単やと思っとったのに!) そう、このままアルト達が行けばせっかくの2人きりの雰囲気が台無しになる。 はやての頭はフルドライブ。脳内緊急国会を召集、急いで審議が始まった。 第1案、今すぐ呼び止める。 しかし野党の 「何か言い訳はあるのか?」 という反論と牛歩戦術によってタイムオーバー。廃案。 第2案、なのは達を通信で呼び出す。 衆議(直感)院は通過。しかし有識者(理性)会である参議院が 「それでは本末転倒ではないか!」 という理由で否決。衆議院での再可決は見送られ廃案。 第3案、本当のことを話す。 内閣は衆議院解散(思考停止)を盾にごり押し、参議院を通過させる。しかし肝心の衆議院の大多数が 「なんか嫌な予感がする・・・・・・」 と独特の理由で難色を示し、否決。廃案となった。 それによって脳内人格八神はやて内閣総理大臣は伝家の宝刀を行使。衆議院を解散した。 こうして思考停止に陥った〝はやて〟は、『これだから人間は何にも決まらんのや!』と自らの脳内人格(政治家)達を批判する。そして───── (ええい!もう、なるようになれ!) 彼女はついに最終手段である神頼みに入った。 (どうかお願いします。神様、仏様、夜神月様─────あれ?) しかし天はご都合主義(クリスマスも祝うし、正月には神社・お寺に参拝に行くため)で基本的に無信教の彼女を見捨てていなかったようだ。 なんとアルト達が乗ろうとしていたエレベーターになのはとユーノの2人が乗っていたのだ。 「あれ?どうしたんだ?喫茶店にいるんじゃなかったのか?」 「ああ、うん。そうなんだけど人がいっぱい来ちゃって、席が足りないみたいだったから出てきたの」 なのはのセリフを聞いた時、はやては神の存在を信じたという。 自分達が席を離れた時、まだ客は自分達しかいなかった。でなければ、公衆の場で堂々と機密情報の漏洩などやれるはずがない。当に神のみわざといえるピンポイントさだった。 「そうですか・・・・・・どうしましょうアルト隊長?機密もありますし、ここはまずいと思いますが・・・・・・」 「う~ん・・・・・・」 頭をもたげるアルト。胸をなでおろしていたはやては彼らに他の場所を提案した。 「じゃあヴァイスくんのヘリに行こう。あそこなら機密も保てるし、この人数でも十分や」 この案は即採用され、新人たちの所へ行くフェイト以外はヘリに向かった。 (*) 「―――――で、お前は誰なんだ?」 ヘリに入るとアルトは単刀直入にユーノに問うた。 「彼はユーノくん。私達の幼なじみで、管理局の情報庫である無限書庫の司書長をしてるの」 「なるほど。俺はフロンティア基地航空隊の早乙女アルトだ。ついこの前まで六課で世話になってたんだが、異動になってな。よろしく」 「こちらこそよろしくお願いします。・・・・・・ところでそちらの方は?」 ユーノがフロンティア基地航空隊のフライトジャケットを着た黒髪の少女を示す。 「彼女は俺の小隊の2番機を務める工藤さくら三尉だ」 「はじめまして、真宮寺・・・・・・いえ!工藤さくらです」 なぜかは知らないが彼女がいつも使う偽名を名乗ろうとしたが、アルトが先に紹介してしまったことに気づいたのか軌道修正した。 一方ユーノはなぜか『なるほど』という顔になった。 「はじめまして。やはりあなたがあの〝工藤家〟の当主になられたさくらさんですね。騎士カリムからお話は伺っております」 ユーノがおずおずと頭を下げる。 「そんな、頭をお上げになってください。あたしそんなたいそうな者ではありません。ただ工藤家に生まれてきただけの小娘ですよ」 (工藤家?あいつの家そんなに有名なのか?) しかし周りを見ると六課のみんなも知っていたようだった。 そこでよく知っていそうなはやてに念話を送る。 『(すまん。水をさすようだが、工藤家ってなんだ?)』 『(・・・・・・なんや知らんかったんかいな。通りでさくらちゃんを普通に使ってると思った)』 すると彼女は懇切丁寧に説明してくれた。 工藤家とは100年前のミッドチルダ、ベルカ間の全面戦争を終わらせた者の末裔らしい。 元々聖王教会とはその彼らが作ったもので、伝承によれば今では主神として祭られている聖王の力を借りて戦争を終わらせた。 聖王は当時の核兵器や衛星軌道兵器、ベルカ側陣営による隕石の落下すら無力化し、この地に平和を呼び込んだという。 映像や写真すら残っていないが、小学校の教科書にすら載っているこの実績ある神を崇める者も少なくない。そのため聖王を使役した工藤家は代々神との対話役として大切にされていた。 そして工藤家は管理局の魔導士になることが伝統とされており、彼女をバルキリー隊へ推薦をしたのは聖王教会らしい。 さくらはこの工藤家の末裔で、両親が早くに事故で死んでしまっていた。 そのため聖王教会に所属する騎士カリムは工藤家最後の1人になってしまった彼女の身を案じているという寸法だったらしい。 また、あの偽名も工藤家という事を隠したかったのだろう。との事だった。 (育ちがいいとは思っていたが、まさか本物のお嬢様とはな・・・・・・) アルトは彼女のトレードマークである大きな赤いリボンで結わえた麗しい黒髪を見た。するとそれが右に流れていき、さっきまであった場所が少し赤く染まった肌色に変わった。彼女が振り返ったのだ。 「・・・・・・どうしました?」 「いや、なんでもない。それでな、はやて、こっちではゴーストの連中と交戦に入ったんだがいつもより動きが良かったんだ。ここまでは聞いてるか?」 「うん、シャマルから報告は受けとるよ。なんでも賢くなったとか」 「そうだ。それでうちの3番機が早まって特攻しやがった。そしたら奴らどう対応したと思う?」 アルトの問いかけになのはが 「普通に考えたら迎撃だと思うけど、違ったの?」 と問い返す。 「違うんだよ。アイツらギリギリまで逃げて、激突寸前に自爆しやがったんだ。お陰でバカなまねした3番機は無事だったんだが、どうも解せねぇ」 「なるほど・・・・・・」 はやては腕組みしながら自らの考えを更に補強した。 今回ガジェット達を操作した召喚士は、本気で人死(ひとじ)にが出ることを恐れているらしい。 でなければ無人機とはいえ〝タダ〟ではないはずだ。トチ狂った敵のために自爆など、そうそうできることではない。 「聞いた話によればそっちも何かあったみたいだが、何があったんだ?」 アルトの問いに、はやてはガジェットの非殺傷設定と戦闘員への選択的攻撃について話す。 「─────と、こういう訳で陸士部隊の被害が少ないのや」 はやてはヘリの窓から近くに設営されている野戦病院を指さす。 確かにそこにいる陸士達はいずれも軽傷で、陸士部隊の救急搬送用のドクターヘリも駐機したまま、飛び立つ様子はなかった。 「でもおかしいよ。目的がわからない。こっちの被害がないんじゃ『本気を出せばこんなんなんだ!』って言いたい訳じゃなさそうだし・・・・・・」 ユーノの言に、なのはも 「そうだよね・・・・・・」 と同意する。 「やっぱり、シグナムが言っとった車上あらしが怪しいんかな・・・・・・」 はやての呟きに視線が集まる。 「どんな車上あらしだったの?」 「うん、実はな、人間じゃなくて召喚獣や使い魔らしいんや」 はやてはシグナムからの報告を全て話した。手法から撤退まで。ちなみにトラック自体は盗難車であることがわかっていた。 「この流れで行くとその召喚獣が本命っぽいね」 「でも、何を盗んだのかわからないのが困りますね」 「「う~ん・・・・・・」」 一同頭を捻るが、そこまでだ。 ホテル側やシャマルとシグナム、そしてAWACSに聞いてもそれ以上の情報はなかった。 こうなると、今後は調査隊の報告を待つしかなさそうだった。 (*) 「ところでアルトくん、なんかなのはちゃんに頼みごとがあったんやなかったか?」 「え? アルトくんどうしたの?」 考え込んでいたなのはがアルトに向き直る。 「ああ。それなんだがな、さくらがお前のところで1週間でいいから戦技教導してくれって言うんだ」 えっ!?となるなのはにさくらが畳み掛ける。 「お願いします!今日アルト隊長や天城さん─────僚機を守りきれなくて・・・・・・あたし、もっと強くなりたいんです!やる気はありますから、どうかお願いします!」 深々と頭を下げるさくらになのはは困った顔をした。 「え~、う~ん・・・・・・アルトくんやミシェル君には教えてもらえないの?」 「いえ、アルト隊長にもミシェル隊長にもよくしてもらっています。・・・・・・ただミシェル隊長は長距離スナイピングしか教えてくれないし、アルト隊長も主戦術が高速機動による撹乱と誘導弾との連携攻撃なので、あたしの特性に合わないんです。・・・・・・あっ、アルト隊長、全く役に立たないなんて言ってませんからね!」 あたふたしながら否定するさくらに、アルトは 「仕方ないさ。人それぞれの特性があるんだから」 と流した。 「そっか・・・・・・でも私はうちの新人達の面倒を見てあげなきゃいけないからなぁ・・・・・・さくらちゃんは何がやりたいの?」 「近・中距離での機動砲撃戦です。今日の戦いで、長距離からの援護狙撃という戦術に限界を感じたんです」 長距離からの狙撃にはどうしてもタイムラグが出てしまう。そこがスナイパーの腕の見せどころだったりするが、彼女には今が限界だった。 さくらの言った戦術はなのはの十八番とも言える戦術で、彼女が魔法を手にしてから10年間磨いてきた戦術機動だった。 「だったら1週間、なんて中途半端な期間はダメだね。さくらちゃん、3週間でも頑張れるかな?」 「はい!もちろんです!!」 さくらが嬉々として応える。なのはは頷くと、人指し指と中指を立てていわゆる〝ピース〟の動作をすると続ける。 「でも条件が2つ。まず1つ目に、アルトくんがさくらちゃんの面倒をみてあげること。わたし、魔導士としてのスキルしか教えられないから、それをバルキリー用に転換してあげないと」 アルトは仕方ないな。と肩をすくめる。 「2つ目に、どうしてもうちの新人の教導がメインになっちゃうから、教導は早朝と夕方ぐらいしかできないんだけど、それでもいい?」 「はい、構いません!お願いします!」 「うん、いい返事。明日の早朝には始めたいから、部隊に帰ったら荷物をまとめて、アルトくんと一緒においで」 「はい!ありがとうございます!」 さくらは最敬礼して言った。 これが地獄への入り口であった。 To be continue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 試験駐屯を名目に機動六課に派遣されるサジタリウス小隊 しかし開始されたさくらの教導はあまりに――――― 次回マクロスなのは第21話「サジタリウス小隊の出張」 『なのはさんが、あんな人だったなんて・・・・・・』 ―――――――――― シレンヤ氏 第21話へ
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なのはStS×デモベ クロス元:斬魔大聖デモンベイン 最終更新:07/11/21 第一話 不思議の世界のティアナ 第二話 混沌とティアナ 第三話 魔導書とティアナ 第四話 いんすたんとまぎうす 第五話 スーパーティベリウスタイム(仮) 第六話 はんげきのお時間 第七話 望むところだ、ケッチャコ 拍手感想レス :とても面白く熱い展開なのでかなり続きが気になります!! TOPページへ このページの先頭へ
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「俺の家族を…」 刀に鳩尾を貫かれながらも彼は呟いた…その様は無残そのものだった。 向こうでに転がっている超一流の戦士でさえ、彼を死のふちに追いやり、 今まさに命を奪わんとするこの男には全く歯が立たなかったのだ。 もとよりただの人間が不意をついたところで勝負になるはずもない。 「ふん」 男が嘲笑を漏らし、刀を握る手に力をこめる。 もはや勝負は決した。うっとおしい蝿どもを始末し、左腕に取り戻した「母」と共に 約束の地へと行き…この星を取り戻すのだ。男の頭にはそれしかなかった。 「俺の故郷を…よくもやってくれたな。」 彼は、自らを貫く刀身に指をかけた。もはや虫の息、それだけの 動作を行うだけでも全身全霊を持ってせねば不可能であった。 そんな僅かな動きに男は気づかない―――以前の男にはありえない油断と見落とし。 慢心と歓喜のせいだろうか?いや、そもそも彼はすでに英雄とまで 称えられた男ではない。足元をすくわれるほどの狂気にそまっていても不思議ではないのだ。 「うおおおおおお!」 「何――っ!?」 男が彼の動きに気づいた時―――いったいどこにそんな力が残っていたのだろうか――― 彼は手に力を込め自らに更に深く刀を刺した。 握り締めた刀を持ち上げ、男に持ち上げられていた足を地に着けた。 そして、さらに力を込め……男ごと刀を凪ぐように振り回した。 予想外の抵抗に男は振り飛ばされる。 弧を描いて床に叩きつけられ、ほんの一瞬だけ意識が一瞬吹っ飛ばされたようだ。 「あんたは…あんただけはぁぁぁ!」 その隙を見逃さず、間髪いれずに彼が男へと突進した。 両腕で男をがっしりとつかんで引きずり上げ、その勢いまま 押し出す―――その行き先は底の見えない奈落… 押し返す間もなく引きずられ、ついには足場が途切れて…男は光が渦巻く奈落へと 落下していった。 男を突き落とした彼も自らの勢いを殺しきれずに宙に放り出される。 その腕を掴んだのは…先ほどまで倒れ伏していた彼の親友であった。 「お前を…お前まで死なせるわけにはいかないんだよ・・・!」 全力を持って引き上げようとする戦士…しかし、戦士も男との戦いで ダメージを負っている、加えて「彼」は生きているのがありえないくらいの危険な状態だ。 両者共に支えきれるはずもなく…男と同様に奈落の中へ落下していった。 「うわぁぁぁぁぁぁ!」 暖かい…なんだ、この感覚は?これが魔晄の本質? まるで・・・何があってもいつかはそこへ帰って安らげる場所のようだ・・・ 強靭な精神を持つ戦士とてこの心地よさにずっと身を任せていたいとの誘惑にかられる。 しかし心のどこでそれを引き止める意思があることに気づいた。 「そうだ、アイツを…アイツを助けなきゃ…アイツを助けて俺も生きて帰って…」 そう思ったとき、彼の意識は途切れた。 今回の任務は骨が折れた。 確保対象のロストロギアは「星そのもの」が保有する莫大な魔力を吸い上げる機関。 幸い不法所持している集団はその力を最大限に引き出す事ができなかったものの 未完成状態でさえ推定Sランク相当以上の砲撃を連射という真似が出来たのである。 制御が甘いのか命中精度に何があったお陰でどうにかなったがこんなものが完成したらと思うとぞっとしない。 端末兵器は無力化し、局員達に研究員も逮捕させた。機関は停止させたものの これだけのシロモノだ、まだ安心は出来ない。 安全のため機関から局員を遠ざけ、炉心の状態を確認しなければならない。 キーを操作し扉を開けて機関内部に入る、機関停止して間もないためか外に比べて若干暑い。 通路を進むと奥のほうに緑色の光が見えた、位置的にはおそらくあれが炉心だ。 さらに進んでそれを目の前にする。先ほど見えた光は機関が吸い上げたエネルギーの残滓のようだった。 今この瞬間にも光はだんだん弱くなっている、大した魔力も感じないし暴発の危険性は無いだろう。 これほど大規模なものは自分ひとりでは封印できない、区域を封鎖させて後は専門の局員達に 任せるとしよう。 「ぐ…」 炉心の奥を覗き込もうとしたとき何かが聞こえた―――ような気がした。 そこでフェイト・T・ハラオウンが見たのは・・・大剣を持った傷だらけの男が倒れている様であった。 「彼の持つ魔素にも似たエネルギー・・・これは本人の持っているエネルギーというよりも 長時間それに晒されていた結果と見るべきかな」 白衣の男がカプセルを眺めてつぶやく 「セフィロス…ザックス…ティファ…」 「先日、爆発現場から回収してからずっとこのようにうわ言を繰り返すだけです。 精神に重度の影響をもたらす何かがあったと考えられます」 カプセルの中の彼が呻き、それを受けて白衣の男の傍らの女が言う。 「さて、この拾いものはとんだお荷物なのか思わぬ掘り出し物になるのか…どちらだろうね」 ジェイル・スカリエッティはめったに見せない険しい表情でカプセルを見つめた。 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第17話『大宴会 後編』←この前の話 『マクロスなのは』第18話「ホテルアグスタ攻防戦 前編」 「みんな、今日の任務はホテル『アグスタ』の防衛任務です。まず─────」 なのはがフォワード4人組を前に説明する。 今なのは、フォワード4人組、シャマル、リィン、ザフィーラにフェイト、そしてはやてを乗せたヴァイスの大型ヘリは、そのホテルに向かっている最中だった。 1週間前にレジアスの公表したこの防衛任務は地上部隊初の陸士、空戦魔導士そしてバルキリー隊の正式な三位一体の合同作戦となるようセッティングされていた。 編成表によれば陸上戦力は何かと因縁が深い第256陸士部隊1個中隊(150人)。航空戦力は首都防空隊に名を連ねる第16、第78空戦魔導士部隊のAランク引き抜き(50人)部隊が展開する。 また特別戦力として機動六課(12人)、フロンティア基地からはスカル、サジタリウス両小隊(7人7機)が投入された。 ことに、陸上と航空戦力合わせて200人以上という、まさに壮観と言っていい防衛体制になっていた。 「─────このように私達は建物の警備の方に回るから、前線は昨日から守りについている副隊長達の指示に従ってね。あと地上には陸士部隊が1個中隊展開しているけど、気を抜かないように」 「「はい」」 前線の4人は応えるが、キャロは何か質問があったようだ。 「あのぅ・・・」 と手を挙げている。 「どうしたの?」 「はい。あの、さっきから気になってたんですけど、シャマル先生の持ってきた箱って何ですか?」 突然話を振られたシャマルは、足元に置かれた3つの箱に視線を送り 「ああ、これ?」 と確認すると、笑顔で言う。 「隊長達のお仕事着♪」 その口調はどこか楽しげであった。 (*) 11人を乗せた汎用大型輸送ヘリ『JF-704式』はそれから60分後、普段はこの空域の民間機を担当するアグスタ側の管制エリアに入った。 『こちら管制塔。貴機の所属を述べてください』 その通信にヴァイスが応じる。 「こちら時空管理局本局所属、機動六課のスターズ、ライトニング分隊です。AWACSとの認識番号は3128T(さんいちにいはちチャーリー)」 『・・・・・・確認しました。駐機はホテル側の駐機場が満員なので、臨時に作られたE-5エリアの駐機場にお願いします』 「了解。管制に感謝する。オーバー」 ヴァイスは通信を終えると、手元のパネルを操作して周辺のマップを確認する。 ホテル周囲は利便性から今日だけ管理局が東西南北3、5キロメートルに渡って500×500メートルで区切っている。それは 北から南に向かってアルファベット順に。西から東に向かって数字順になっていて、管制官の言っていたE-5エリアとは中央のDー4エリアにあるホテルから、南東に100メートルほど離れた所にある空き地のことだった。 「どう?ヴァイスくん、あとどれくらいで着くかな?」 後ろからなのはの声がする。 やはりとび職(少し違うか?)。閉鎖空間に1時間というのは苦痛なのだろう。 「あと5分ぐらいで着陸しますよ。もうちょい待ってくださいね」 後ろから 「「は~い!」」 という元気な声が聞こえる。なのはの声だけではない。乗客全員の声だ。 よほど自由を心待ちにしているらしい。 (まったく。まるで幼稚園の先生にでもなったみたいだぜ) 元気あふるる返事に肩が軽くなった思いのヴァイスは、レーダーに視線を落とした。 周囲には民間機、管理局の機体が入り乱れている。その内の1機がこちらに近づいてきた。このIFFは───── 『こちらフロンティア基地航空隊、サジタリウス小隊の早乙女アルト一尉だ。3128T、貴機の護衛に来た』 (*) 隣にヴァイスのヘリが見える。 ガウォーク形態なので、ヘリと同じ速度になることもお手のものだ。 (少し無理してヘリの護衛を志願した甲斐があるってもんだ) アルトは久しぶりに六課の面々に会えそうだ。と思い、笑みを溢した。 『こちら3128T、護衛に感謝する。あ、それとアルト、今度バックヤードの連中と飲み会があるんだがお前もどうだ?』 ヴァイスの軽口も聞いて久しいアルトはコックピット内で破顔して答える。 「バカ言うな。何度も言ったろ?俺はまだ未成年だって」 『ハハハ、そうだったな。ん・・・・・・あー、ちょっと待ってくれ』 どうやら向こうで何か受け答えしているようだ。モニターで拡大されたヘリのコックピットに、人影が現れた。 『─────なんかなのはさんがおまえに話があるんだってよ。今切り替える。・・・・・・上手くやれよ』 ヴァイスが小さな声で言った最後の一言が気になるが、応答する余地もなく『ブッ』という耳障りな音と共に相手の無線端末が切り替わった。 『あー、アルトくん?』 「あぁ、俺だ。どうかしたのか?」 なのははこちらのいつもの調子に安心したようだ。〝ふぅ〟という吐息が聞こえる。 『うん、ちょっとこの前のことでお礼を言いたくて・・・・・・』 「この前の?」 『その・・・・・・宴会の時の・・・・・・』 (ああ、それか) 宴会の騒動以降、まともな状態のなのはには会っていない。最後に見たのは基地に帰る際、休憩所に見舞いに行った時だ。 ちなみにその時のなのはは、気持ち良さそうにすやすや寝息をたてていた。 『あの、わたし、この前はとんでもない事を─────』 赤面するなのはの顔が浮かぶようだ。だが、残念ながら光の関係上、ヘリのコックピット内は見えなかった。 「確かにあれは凄かったな・・・・・・だが安心しろ、なのは」 『へ?』 「あの時メサイアに録画されてたガンカメラの映像は、一晩〝使った〟だけだから」 『え!?ちょっ、ちょっ、アルトくん!〝使った〟って・・・・・・あの、その、えっと・・・・・・なに言ってるの!!』 声がうわずっている。よほど動揺しているらしい。ひとしきりその反応を楽しんだアルトは『このぐらいにしておいてやるか』と切り上げる。 「すまん、ウソだ。安心しろ。そんなことに使ってない。メサイアのガンカメラの記録はすぐに消したよ」 そのセリフに落ち着いたなのはは 『そ、そうだよね。はぁ、びっくりした・・・・・・』 とため息をついた。しかしそれはなぜかほんの少し落胆して聞こえた。 『・・・・・・でもアルトくん、以外と下世話なんだね』 「あら、妖精は下世話なものよ・・・・・・ってこのセリフは役者が違ったな。まぁ気にするな」 アルトは笑うと、なのはもつられて笑った。 『─────ふふ、まぁ、とりあえず1つ言っとかなきゃね。ありがとう』 「ああ。お前を助けるために、こっちは命を張ったんだ。身体は無理せず大事に使えよ。お前に何かあった時、悲しむのはお前1人じゃないんだ。はやてやフェイト、もちろん俺だって。それをよく覚えておいてくれ」 『うん、りょうかい』 なのはの砕けた感じの声と共に無線は切られた。 (*) 「なんの話をしたの?」 キャビン(客室)に戻ってきたなのはにフェイトが問う。 「うん。ちょっと、宴会の時のお礼をね」 なのははそう言って微笑んだ。 (*) 「なのは~準備できた~?」 更衣室と化したJF-704式に向かってフェイトが呼びかける。 すでにフォワード陣や守護騎士陣はそれぞれ任務のために防衛部隊とホテルの警備員達への顔出しに散っている。 すでにここには護衛の一環と称してEXギアのままバルキリーから降りた自分。そしてヘリからの強制退去を命ぜられたヴァイスと、軽い化粧とドレスに身を包んで絶世の美女と化したはやてとフェイトだけだ。 しかし着替え始めて5分。早々に出てきた2人と違い、なのははまだヘリにひきこもったままだった。 『ほんとにこれを着なきゃダメなの~!』 「どうしたんや?サイズ合わんかったんか?」 「だから昨日『試着しておいた方がいいんじゃないかな?』って聞いたのに」 『そういう問題じゃないんだよ~!』 要領を得ない謎の応答に首をかしげる2人。 「様子見に行った方がいいんじゃないか?」 「そうだね。はやて、行ってみよっか」 「うん」 はやては頷くと、フェイトと共にヘリの中に消える。・・・・・・と内側から声が漏れてきた。 『あれ?準備できとるやんか』 『だってドレス着るなんて聞いてないもん~!』 『昨日あまり目立たない服で警備するって話したやんか』 『そうだよね・・・・・・こんな場所で普段着なわけなかったよね・・・・・・でもこんな服着たことないし―――――』 『大丈夫だよ。なのは、よく似合ってるから』 『ホントに!?』 『うん、よう似合っとる。でも改めて見るとフェイトちゃんもなのはちゃんもけしからん胸しとるの~』 『ちょ、ちょっとはやてちゃん!』 『ひひひ~揉ませや~!』 はやての奇声につづいて2人の悲鳴と、暴れたことによりヘリがガタガタ揺れる。 (ヤバい・・・・・・) 自分の中に潜むものが、意思とは関係なしに心臓を高ぶらせる。 もし自分を見るものがあれば顔を赤くしていることが丸見え――――― 「あ・・・・・・」 目の焦点が近くの木に背中を預ける人物に収束する。 「ふ、若いな・・・・・・」 「お前も顔赤くしてんじゃねぇか!」 そう年が離れていないヘリパイロットに言ってやると、いつの間にかヘリ中での騒動は終結したようで 「大丈夫、大丈夫。すごく似合ってるから」 などと説得されつつ2人に引きずられる形でなのはが出てきた。 「ア、アルトくん!?」 「俺がいるのがそんなに不思議か?さっきからいたぞ」 「ヴァイスくんの声だと思ったから・・・・・・」 「そうか。しかしお前、初舞台の時より色気があるんじゃないか?」 「初舞台?ってもう!その話題から離れてよ~!アルトくんの意地悪!」 本当に怒ってしまったのか、なのはは〝プイッ〟とそっぽを向いてしまった。 「意地悪は俺の性分らしくてな。・・・・・・そろそろ上空警戒に戻らないとミシェルに嫌味を言われそうだ。またな」 「アルトくんもがんばってな~」 「サンキューはやて。それとだな、なのは」 「うん?」 ヘルメットのバイザーを下して振り返ると、どうしても言っておきたかったセリフを具現化した。 「月並みだがよく似合ってるぞ。俺が保障してやる」 捨て台詞のように告げてバルキリーに搭乗すると、エンジンを起動する。 ちなみに顔が赤いのを隠すためにバイザーを下したというのは内緒だ。 多目的ディスプレイに「READY」の文字を確認すると、スラストレバーを押し出してガウォーク形態の機体を浮き上がらせる。 地上に吹き荒れる推進排気をものともせず手を振るはやて達にコックピットから敬礼して返事をすると、高度2000メートルの高みへと機体を飛翔させた。 (*) ホテル入り口では長蛇の列が出来ていた。 ガジェットにより治安の危機が叫ばれるこのご時世。便乗する次元海賊などのテロリストのテロ行為防止のため、ボディチェックや身元確認の作業は空港のそれとほぼ同等のレベルにまで引き上げられていた。 そしてその最初の関門たる身分証明書を確認する係の前に身分証のICカードが示された。 「こんにちは、機動六課です」 担当者は証明写真と目前に佇む実在を見比べて一瞬驚いた表情を見せるが、自らの本分を思い出したらしく咳払い一つで向き直る。 「いらっしゃいませ、遠いところありがとうございます。検査は4番ゲートでお願いします」 「わかりました。ありがとうございます」 着いてみると4番ゲートは一般客のものとは仕様が違った。 変身魔法対策のDNA検査、透視型スキャナーなど同じものも多いが、デバイスの認識と魔力周波数などを検査する機械も置かれていた。 といってもこれは端末機で個人を特定するのに必要な個別データは記録されていない。 実はそれら軍事機密の漏えいを防ぐために時空管理局のデータバンクに直接リンクして必要な情報を出力するようになっていた。 ブラックボックス化された貸出端末機は瞬時に3人とデバイスを本物と認め、他の検査共々彼女たちがそれであることを証明した。 (*) 入ってすぐなのはとはやてはフェイトと別行動をとることになった。 「じゃあ、わたしたちはまず会場に行ってみるね」 「うん。わたしは昨日から張ってくれてるシグナムさん達に会ってくる」 フェイトと別れた2人は、未だ客を入れていない会場に入場した。会場は500人程の収容力のある映画館のような階段状の客席だった。 「入り口はああしてチェックが徹底してるみたいやし、テロは大丈夫やな」 「外には陸士部隊に空戦魔導士部隊、そしてバルキリー隊。それにホテル内には防火用シャッターがあるし、まずガジェット達が入って来るのは無理そうだね」 2人の出した結論は、ホテル内はほぼ安全であるということだ。 もともと今回の投入戦力の量が異常なのだ。 今回の布陣は〝みんな仲良く一致団結〟という管理局の姿勢をアピールするために行われたと思われるが、少し政治が絡み過ぎている。レジアス中将も少し事を焦ったらしい。 だが少な過ぎるよりはましなので誰も批判はしないし 「安全を確保してくれるなら」 と、肯定的に捉える者が多かった。 ちなみに2人も肯定派だった。確かにあの演習レベルの数が奇襲してきた場合、これぐらいいたほうが安全だ。出現率の最も高いクラナガンも、残存するフロンティア基地航空隊とロングアーチスタッフ、そしてAWACS『ホークアイ』が目を光らせてくれている。 「とりあえずは、安心だね」 「でも気は抜かんようにせなあかんな」 2人は油断なく周りに気を配った。 (*) シグナムに会って彼女から地下駐車場に向かう旨を聞いたフェイトは、今度はヴィータの元へと歩を進めていた。 「バルディシュ、オークションまでの時間は?」 その問いにポーチに付けられたバルディシュが答える。 『1 hours and 7 minute.』 「ありがとう」 フェイトが礼を言った直後、彼女の後ろから何かが転がってきた。 それは拳大の丸い水晶だった。しかしただのガラス玉ではないようだ。不透明で紫っぽい。 どこかで見た気がしたが、その思考は後ろからの声にかき消される。 「誰かあの水晶を止めてくださぁぁい!」 その声に彼女はすぐに反応する。おかげでその水晶は間一髪、階段から落ちるすぐ手前でキャッチされた。 「あぁ、ごめんなさい。わざわざ拾っていただいて─────ってあれ? フェイト?」 フェイトが背後からの声に振り返ると、そこには懐かしい顔があった。 シレンヤ氏 第18話後半へ
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2 海鳴臨海公園は、日当たりと風通し双方に恵まれた場所にあるため、休日は市民の憩いの場所として人気がある。 梅雨も明けた七月末、夏休み最初の休日という事もあって、ジョギングに精出すスポーツマンや散歩中の家族連れ、 カップルなどで公園は賑わっていた。 人通りで賑わう海沿いの遊歩道を、大学生の女性二人組みが、周囲の注目を集めながら歩いている。 一人は、白いトップスに黒のロールアップパンツとウェッジサンダルが、一流トップモデルみたいに似合っている 白人女性。 もう一人は、紺の半袖ブラウスにリボンベルトの付いた白のタックスカートと、ネイビーカラーのウェッジソールが、 清楚な雰囲気を漂わせている日本人女性だから、注目を集めるのも無理はない。 「今日は何時にも増して人が多いね、アリサちゃん」 「学校も休みに入ったし、今日は休日だからじゃないの? すずか」 月村すずかとアリサ・バニングスの二人は、周囲の熱い視線を平然と受け流し、歩きながら他愛ない雑談をしていた。 「ところで、なのはちゃんは?」 すずかが尋ねると、アリサは周囲を見回しながら言う。 「えーと、この辺りで待ち合わせなんだけど…」 「あっ」 アリサ同様、辺りを見回していたすずかが、突然表情を崩して口を押さえた。 「すずか?」 アリサが怪訝な表情ですずかに声に掛けると、すずかは笑いを堪えながら指を差す。 「君、今待ち合わせ中? もし時間があるなら、向こうの通りの喫茶店でお茶でもどうかな?」 「えっと…あの…その…」 アリサやすずかと同年代で、左寄りのポニーテールに紫のカットソー、デニムジーンズと藍染柿染め のスニーカーという服装の、二人によりは地味ながら平均以上に綺麗な女性が立っていた。 彼女は、派手な色彩のジャケットとジーンズの服装が、如何にも軽い雰囲気な男にナンパされて困った 表情を浮かべている。 「いや、予定があって待ってるのは分かるんだけど、時間まで少しの間でもいいんじゃないかなって――」 ナンパ男がそこまで言いかけた時、誰かがいきなり背中を強く小突いた。 「――ってぇ、誰だ!?」 乱暴な口調で振り向いた男の険しい表情も、アリサの牙を剥き出しにした狼の如き凶悪な笑みに消し 飛んでしまった。 「あ…アリサ・バニングス!?」 「私の大切な友達にナンパとは、いい度胸してるわねぇ…」 「――――っ」 アリサは男の足を思いっ切り踏みつけて、男の返答を遮る。 「ふふ…相変わらずだね」 すずかは、その様子を微笑みながら見つめている。 「くぁwせdrftgyふじこl;p@:…っ!」 足の痛みと、アリサの人食い虎の如き凄みのある笑いで固まっている男が、すずかに救いを求める ような視線を送る。 「アリサちゃん、もういいんじゃない?」 すずかがアリサの肩を軽く揺すると、アリサは思いっ切り踏みにじってから足を外す。 男は足を引きずりながら、ほうほうの体で逃げ出した。 「なのはちゃん、大丈夫だった?」 すずかが言うと、高町なのははほっと肩の力を抜き、二人に頭を下げる。 「アリサちゃん・すずかちゃん、ありがとう~」 「とんだのにひっかかったわね。あいつ、ウチの大学では超有名な自称“愛の伝道師”なのよ」 アリサが苦虫を潰すかのように言うと、すずかは微笑んだまま後を続けた。 「で、ことごとく失敗してる事でも有名なの」 「そう、あたしもすずかもあいつの毒牙に危うくかかるところだったんだから。まぁ、頬に2~3日 は引かない腫れを作ってやったけどね」 腕を組んで言うアリサに、なのはは人差し指で頬をかきながら苦笑する。 「あはは。アリサちゃん、会うごとにどんどん過激なってない?」 「現実に鍛えられてタフになってると言いなさい。なのはだって、管理局のエース・オブ・エース なんだから、あんなバカは魔法で吹っ飛ばせば済むじゃない」 「無理だよ~。一般人にそんな事したら、魔導師資格剥奪された上に刑事罰で実刑になっちゃう」 三人が笑いあった時、なのはの背後で小さい子供の声がした。 「ママ?」 「あれ、ヴィヴィオちゃんも来てるの?」 すずかが尋ねると、なのはは頷いてから後ろを振り向く。 「うん。ヴィヴィオ、もう大丈夫だよ」 なのはがそう言うと、後ろから迷彩色のキャミワンピースを着た、オッドアイの小さい女の子が出てきた。 「ママ、大丈夫?」 心配そうに見上げる高町ヴィヴィオを、なのはは抱き上げて微笑む。 「ママは全然平気、ヴィヴィオは?」 「ヴィヴィオも平気」 なのはの微笑みに、ヴィヴィオも満面の笑みで返した。 「こんにちはヴィヴィオ」 「お久しぶりね、ヴィヴィオちゃん」 二人が挨拶すると、ヴィヴィオも丁寧に頭を下げて挨拶する。 「今日は。アリサお姉ちゃん、すずかお姉ちゃん」 「で、今日の予定は?」 「そうねぇ…」 アリサが問いかけると、なのはは少し考え込んでから答えた。 「街へ出てお買い物をするかな? ヴィヴィオに何か綺麗な服とかアクセサリーとか買ってあげたいし」 「お買い物するの?」 ヴィヴィオの問いかけに、なのはは優しく頭を撫でて首肯する。 「うん、ヴィヴィオに似合う可愛らしい服を買ってあげる。それからお菓子もね」 「うん」 「ちょっと過保護じゃないかなぁ…」 アリサは苦笑しつつすずかに顔を向けると、すずかも首を傾げつつ微笑んだ。 「OK、じゃあ行くわよ」 そう言って、アリサとすずかは海側へと歩き出す。 「あれ、そっちは駐車場じゃ?」 なのはがそう言うと、アリサは人差し指をなのはの眼前で立てて左右に振る。 「ふっふっふ…」 アリサは含み笑いをすると、なのはに付いて来るよう身振りで示した。 前へ 目次へ 次へ
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逆境をチャンスに変え、謎の襲撃者ヴィータを撃退したなのは。 結界は解除され、急行したフェイトやユーノ、アルフとも合流し、彼らは再会を喜び合うのだった。 しかし、団欒の時間も束の間。新たな結界が四人を戦闘空間へと隔離する。 そこで再び襲い掛かって来たのは、ヴィータの仲間であるシグナムとザフィーラであった。 今宵、二度目の死闘が開始される―――。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「仲間の敗北は、仲間が返す―――覚悟して貰うぞ、幼い魔導師」 「……こいつぁ、なかなかグレートな状況なの」 ブレイドタイプのデバイスを構えた女戦士が放つヴィータ以上のプレッシャーを前に、しかしなのはもまた顔色一つ変えずに佇んでいた。 普段の年相応な少女の顔を消し、歴戦の猛者の如き迫力を放つなのはを見て、ユーノとフェイトは既視感を覚えていた。 (この……なのはから感じる『凄み』! 普段のなのはじゃない! 私やアルフと戦った時と同じ、なのはの中にある『何か』のスイッチが入ったんだ……ッ!) それは、なのはが『覚悟』を決めた時の姿だった。 敵を倒す時、『必ずやる』と決めた時、いつもなのははやり遂げる『凄み』を持っていた。 フェイトは普段の優しいなのはの方が好きだったが、今この状況で、今の状態のなのはほど頼もしい存在はいないッ! そう確信もしていた。 「な、なのは……」 「フェイトちゃん。私はこの結果を破壊する為に『スター・ライト・ブレイカー』の用意をしなくちゃあいけない。 だから、ユーノ君達と協力してあの二人と戦って。もちろん、倒しちゃってもいいよ……」 シグナム達を睨んだまま、振り返りもせずに言い切るなのはの自信に満ち溢れた姿。 その姿を見る度に、フェイトは憧れを抱き、同時に自分がどうしようもなく弱気になるのを感じていた。 なのはは偉大だ。とても同い年の少女とは思えない。そんな彼女の『心の強さ』に、フェイトはいつも縋りそうになってしまうのだった。 「で、でも……なのはァ……。 あ、あんまり私に期待しないでよ……私なんかに。結界は私が壊すから、なのはが戦った方がきっと勝ち目も大きいと思うし……」 かつて『母親の為』ならば冷徹な戦闘マシーンのようになれたフェイトも、その母を失ってからはもはやあの時の仮面を被れなくなっていた。 すぐ傍に、なのはという大きな存在がいる事も原因だ。 泣き言を漏らすフェイトに振り返ると、なのははそっと手を伸ばす。 フェイトは殴られると思った。なのはが自分を叱責する時、いつもまず一発入れてから目を覚まさせるのだ。 しかし、なのはは殴る事などせず、フェイトの顔に両手を添えると、互いの額をコツンとつき合わせて視線を合わせさせた。 あまりに近いなのはの顔に、そして覗き込む思わぬ優しい瞳に、フェイトの頬は赤く染まる。 「フェイト、フェイト、フェイト、フェイトちゃァ~ん。 わたしはフェイトちゃんを信じてるの。わたしがいつも怒ってる事なら……『自信を持って』 フェイトちゃんのスピードや魔法は、その気になれば何者にも負けない能力なんじゃあない? そうでしょ? 『自信』を持っていいんだよ! フェイトちゃんの魔法をね―――」 「そ……そうかな?」 「そうだよ」 たったそれだけのやり取りの中で、フェイトの中にみるみる『自信』が湧いてくるのを感じた。 使い魔の自分を差し置いての会話に、面白くなさそうな表情をするアルフ。彼女はフェイトの支えになっているなのはという少女が苦手だった。 「……茶番だな。お前は戦わないのか? そこの情けない小娘に任せて、お前はどうする?」 なのはとフェイトの会話を聞いていたシグナムが嫌悪を露わに吐き捨てる。 自分の意思で戦えない者は、彼女にとって未熟者でしかなかった。 「フェイトちゃん、任せたよ」 「わ、わかったよ、なのは!」 なのははシグナムの挑発を無視し、SLBを撃つ為に手ごろなビルの屋上まで移動していく。 完全に背を向けた無防備な後姿を隠すように、バルディッシュを構えたフェイトが立ち塞がった。 「アナタの相手は、私です」 「貴様はあの魔道師の部下か?」 「違う! 私は……『友達になりたい』と、思っています」 「……茶番だ」 シグナムは吐き捨て、次に瞬間フェイトに襲い掛かった。 同時に、アルフとユーノもザフィーラと戦闘を開始した。 前へ 目次へ 次へ